第二十七話 ブタっぽい俺の蝙蝠ステージ④ 切れたブタ
はらが、減った。
のそり。と、蝙蝠たちに血を抜かれ、ガリガリになった俺が、蝙蝠たちに群がられながらその場にゆっくりと立ち上がった。
「腹が、減った」
小さな、かすれるような声を絞り出して、蚊の鳴くような声でそれだけ呟くと、俺はブタ鼻をブヒブヒとひくつかせる。
「甘い匂い。おやつだ」
蝙蝠たちに血を抜かれ、極限に追い込まれて、飢餓状態に陥っていた俺は、極限状態に追い込まれたために鋭くなった嗅覚から、自分の周辺に甘い匂いが漂っていることを感じ取る。
俺は舌なめずりをしながら、甘い匂いが全身から漂って来る俺の肩に噛みついている蝙蝠。否、おやつ肉に躊躇なくかじりついて肉を引きちぎった。
「ギィッ!?」
俺にいきなりかじりつかれて肉を引きちぎられた蝙蝠が悲鳴を上げる。
「うまい。甘い。刺身おやつ肉だ」
俺は呟くと共に、先ほどかじりついた蝙蝠を鷲掴みにすると、大口を開けてガブリついた。
うまい。うまい。うまい。うまい。うまい。おやつ肉を口いっぱいに頬張りながら、肉を引きちぎり呑み込むと、俺は洞窟全土に響き渡るほどの度量で歓喜の声を上げた。
「おやつ生肉うんめぇぇええええええっっ!!!」
こうして、生肉が食えることを認識した俺の理性は崩壊した。
それからの俺は、生肉もとい刺身おやつ肉のうまさに夢中になって、自分の体に牙を突き立てている蝙蝠たちに貪りついていった。
そうして、百匹以上はいると思われる蝙蝠の巣の中で、俺と俺の体に群がる蝙蝠たちとのお互いに傷つけ合い。腹が減ったら喰らい合うという泥沼のような死闘が始まったのだった。
それから半時ほどの時間が経過して、自分の体に群がる蝙蝠肉を二十ほど完食し、ようやく失ったカロリーと落ち着きを取り戻した俺は、怒りの声を上げた。
「蝙蝠どもめっ俺のカレーを飲みやがって! カレーの恨み。軽くはねえぞ!!」
俺は怒りの怒声を洞窟内に響かせて、背中に背負っているリュックの脇にビニ―ル紐でくくり付けていた剣の柄を左手でつかみ。右手にハルバードを手にすると、自分の体重を遠心力に変えて、コマのように勢いよく回転し始めた。
自分の体重を遠心力に変えた俺のブタコマ回転切りは、俺の周囲にいた蝙蝠たちを次々に巻き込んでは切り刻んで、肉片へと変貌させていった。
そうして自分の武器の届く周りにいた蝙蝠たちをあらかた駆逐した俺は、今度は俺の武器の届かない安全圏にいる蝙蝠たちを叩き落とすために、手にしていた剣を投擲したりしてみたのだが、元々投擲用の武器でなかった剣では、空中を自由に飛び回る蝙蝠たちをほとんど捕らえることができなかった。
そのために俺は、蝙蝠たちの隙をついてリュックに手をかけると、蔦で作った首輪と、リードを取り出して、首輪の部分を外れないように剣の柄に何重にも巻き付けて強く結びつけると、ハルバードの柄にも、ちょっとやそっとでは外れないようにリードの先端を強く結び付けた。
そう皆さんお気づきの通り、俺が作ったのはちょっと不格好で形もかなりいびつだが、振り回して離れた相手を倒すことのできる武器、鎖鎌だ。
俺は離れた相手を攻撃する刃の部分を剣にし、手にする部分をハルバードに変えたお手製の耐空中戦用蝙蝠兵器。蝙蝠キラー(鎖鎌)を作ったのだった。
それからはまさに俺の独壇場だった。
俺は蔦で結んだ蝙蝠キラーを時に投げ時にぶん回し、空中を羽ばたいて移動する蝙蝠たちを駆逐していったのだった。
そうして一時間半ほど経過した時だろうか? 蝙蝠たちの数もだいぶ減り、俺にかなりの余裕が生まれ始めたのは。
蝙蝠たちの数が減って、余裕が生まれた俺は、数を減らした蝙蝠たちを牽制しながら、マジックリュックを地面に置いて、中から薪を取り出して火をつけると、俺は蝙蝠たちをけん制しながら、今度はリュックから串刺し用の木の枝を取り出して、そこらに転がり食い放題状態と化している蝙蝠を串に刺して焼き始めた。
「やっぱ甘くてうめぇええっっ!!」
そうして食糧確保に成功した俺は、焚火で焼いた蝙蝠肉を片手に持ち、腹が減ったらガブリつきながら、片手に持った蝙蝠キラーをぶん回して、蝙蝠の群れを駆逐していったのだった。
そうしてホール内にいるあらかたの蝙蝠を駆逐しながら、おやつ肉を食っていた俺は、ある程度腹が朽ちたために、腹を撫でながら満足げな笑みを浮かべると、自分のなすべきことを成すために気合を入れなおした。
「腹八分っていうからな。とりあえず、この辺にして残りの蝙蝠肉を確保しとくか」
甘い蝙蝠肉を食い荒らし、ほどよく腹が膨れて上機嫌になった俺は、洞窟のホール内にいる残りの蝙蝠たちを駆逐するために、蝙蝠キラーを巨大なブタ声と共に振り回した。
「ふんぬらばぁあああああああっ!!」
俺が振り回した蝙蝠キラーは、洞窟のホール内に残っていた十羽ほどの蝙蝠たちを地面へと落下させていった。
そうしてホール内の蝙蝠の群れをあらかた駆逐した俺は、ホールに落ちている蝙蝠肉をマジックリュックに次々と拾っては放り込んでいった。
「ふう。これで全部か?」
洞窟の中のホール内に散らばるあらかたの蝙蝠肉をマジックリュックに詰め込んだ俺は、まだ蝙蝠肉が落ちていないか。慎重に周辺を見回していた
「うん。大丈夫みたいだな」
蝙蝠肉の取り残しがないことを確認した俺は、両手を組んでブヒブヒと満足げに頷くと、マジックリュックを背負いなおし、とりあえずいつもの野営地まで帰ろうとしたのだが、その時。俺のブタ鼻を甘い匂いが通り過ぎていった。
「この匂いは!?」
俺は、蝙蝠肉をかじったときに味わったのと同じ、甘味の匂いを鼻で嗅ぐと、すぐさま匂いの元をたどるために、ブヒブヒとブタ鼻をひくつかせる。
「こっちのほうから匂ってくるな」
俺は匂いの漂ってくる方向を確認すると、ブタ鼻をブヒブヒとひくつかせながら、甘い匂いの漂ってくる洞窟の奥へと進んでいった。
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