第二十五話 ブタっぽい俺の蝙蝠ステージ② ブタとこより

 翌朝俺は「ギイギイ」という切羽詰まった声を耳にして目を覚ました。


 俺が寝入っているのをこれ幸いに、いつの間にか灰色狼たちが蝙蝠を狙ってきていたのだ。


 俺は俺の楽しみにしているおやつエサの手がかりである蝙蝠肉に襲い掛かる灰色狼たちを威嚇しつつ、手慣れた感じに保存食として確保すると、朝食に昨日血抜きした灰色狼の串焼き二十本と、命の水を喉に流し込んだ。


 ちなみにいくら血抜きをしても、大して灰色狼のまずい筋肉の味が変わらなかったことをここに記しておく。


 そうして朝飯を食べ終えた俺は、昨日立てた予定通りに、昨日捕獲した蝙蝠に案内させて、蝙蝠のおやつエサを探すことにした。


 そのために俺は、昨日捕獲して今朝がた灰色狼に食われそうになっていた蝙蝠の首に一際頑丈そうな野太い蔦を首輪のように巻きつけると、そこに普通の蔦を結んで犬を散歩する時のようなリードをつける。


 よしっ完成だ。あとは蝙蝠の拘束を解いておやつエサのところまで飛ぶなり歩くなりさせて案内させてやればいい。と思った俺は逃げられないように蔦でがんじがらめにしていた蝙蝠の拘束を解いてから命令する。


「それっ俺をおやつエサのところまで案内しろ」


 しかし蝙蝠は俺の言葉が分かっているのかいないのか、俺にけだるそうな瞳を向けるだけで一向に動こうとしなかった。


 それから小一時間ほど蝙蝠が腹を減らしてやる気を出すのを待っていたんだが、一向に蝙蝠が動こうとしないので腹の底からおやつ肉より甘いおやつエサを食べたかった俺は、犬が散歩のとき言うことを聞かなかったり、吠えたりするのを抑えるときと同じように、蝙蝠につけているリードを引っ張ってみるが、ただ蝙蝠は俺に引きずられるだけで、地面から飛び立とうとも歩こうともしなかった。


「う~ん。首輪とリードっていうやり方がよくないのかな? そもそも野生動物である蝙蝠を飼いならしたわけでもないのに、動きを制限する首輪とリードをつけて無理矢理おやつエサのところ向かわせようとするのに無理があんのかもしれねぇし」


 俺は腕を組んで少し悩んだ末、首輪とリードという本来自然界に存在しないもので、蝙蝠の自由を奪っているのがいけないのだと思って、蝙蝠におやつエサを見つけさせる方法を変えることにした。


 俺の変えた方法とは、野生動物の体に負担をかけず、彼らがいつも通り常に自由に行動できる状態にして、精神的にリラックスさせつつも、目的の物のある場所まで案内させることができる昔から伝わる日本古来の伝統漁法こよりである。


 こよりとは蜂の足に紐を結んで、それを目印に蜂を追いかけて、蜂の巣を見つけるという昔ながらの伝統漁法だ。


 俺はそれを蝙蝠に応用しようというのだ。


 蝙蝠におやつエサを見つけさせる方法をこよりに変えた俺は、早速蝙蝠の左足にこより(ビニール袋特大)を結ぶと、首輪とリードを外してやる。


 俺に首輪とリードを外された蝙蝠は、自由になった首をコキコキと鳴らして、体の調子を確認し始めた。


 蝙蝠の様子を見て、これならいけると判断した俺は蝙蝠に向かって声を飛ばす。


「それ行けっ俺をおやつエサのところまで案内しろっ」


 俺が足にこより(ビニール袋特大)を結んだ蝙蝠を、飛び立たせようとするも、しかし蝙蝠は一向に飛び立つ気配を見せなかった。


「うーん。そういや異世界のはどうか知らんけど蝙蝠って、基本夜行性だもんな。こんな真昼間に飛ぶわけないか。仕方ない。おやつにするか」


 俺は口の周りをブタのような舌で舐めまわしながら、涎を垂らして蝙蝠にジッと視線を向ける。


 蝙蝠は俺がおやつにするかといった声を聞き近づいてきているのを悟ると、覚悟を決めたのか、眠たそうにしていた日の光に弱そうな両目を閉じると、羽ばたき始める。


「おおっとうとうおやつエサを食べに行くのか!?」


 俺は期待の眼差しを向けながら蝙蝠の挙動に注目する。


 すると俺の期待に応えるかのように、蝙蝠は宙を舞い始めた。


 宙に舞い始めた蝙蝠は、ヨタヨタしながらも、森の中の木を交わしながら森の奥へと進んでいった。

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