第十四話 ブタっぽい俺の二度目のオーク狩り③ 死闘
オークに背を向けて、逃走を謀った俺の後頭部に鈍い衝撃が走る。
後頭部を襲った鈍い衝撃で、俺の意識は一瞬暗転し、気を失いそうになるが、ここで俺が気を失ったら、担いでる女の子はどうなる!? 攻撃された腹いせに、良くて生きたままむさぼり食われ、悪ければ先ほどと同じような、オークの性欲処理の苗床だ! 俺は女の子をオークの苗床にしないために、僅かばかりの勇気を振り絞ってこの女の子を助けるために命を賭けたのだ! だから、こんなところで、意識を手放している暇なんてないんだ!
そう思った俺は、必死に意識をつなぎ止めて、女の子を担ぎながら、走り続けた。
だがわかっていた。元々ポッチャリ太めで生来走ることが苦手だった俺が、かけっこでオークたちから逃げ切れないことは。
けどそれでも、こんな年端もいかぬ女の子が、オークの苗床になることだけは、許すことが、見てみぬふりが俺にはできなかった。
俺の行為を偽善と人は言うだろう。それでもいい。例え誰に何を言われようとも、俺は未だ善悪や色恋のイロハすらわからない女の子を、オークの欲望の捌け口にはしたくなかった。
ただそれだけだ。
それだけ考えながら、走っていると、後頭部を殴られて頭から血でも流れたからかどうなのかはわからないが、急激に俺の腹が減り始めた。
どうやら、ここまでのようだ。なんとなくだが、俺は自分の腹が減り始めたら、女の子を担ぐ力がなくなると思い。全裸の少女を追って来るオークたちから隠すようにして草むらに潜ませた。
もちろんこのまま草むらに潜ませただけで、オークたちの追跡から逃げられそうもないのは最初からわかっていたので、草むらに隠した女の子の上から俺の汗まみれの臭いランニングを被せておいた。
万が一にでも、女の子の匂いをオークや他のモンスターたちから隠せればという気休めだ。
そして女の子を草むらに隠してランニングを脱ぐときに外したリュックを、少しでも目の届かない背後を守れるようにと、再び装備して上半身裸になった俺は、奴らから奪い取ったハルバードを手に、錆びた剣や壊れた槍や鉈や斧を手に手に襲い掛かってくるオークたちに身構える。
まぁ普通なら、ハルバードを手にオークたちに突撃するものなんだろうが、残念ながら、俺の足は先ほどの逃走劇のせいで、膝がカクカク笑っていたために、突撃することができないので、待ち構えることにしたのだ。
まず、最初に突撃して来たのは、手に斧を持ったオークだった。
俺は斧を振りかざして襲い掛かってくるオークの進路上に向けて、両手で掴んだ斧と槍の混ざり合ったような形状をしたハルバードを野球のバットのように、カウンター気味に思いっきり振り回した。
普通の兵士なら力任せの俺の攻撃など斧でハルバードの軌道を反らすかどうにかして簡単に弾けていただろうが、所詮はオーク。豚並みの知能しか持っていないのか、自分が振り上げた斧をただ力任せに降り下ろすだけだったために、あっさりと俺の降り回したハルバードの一撃をまともに顔面に食らって、頭を真っ二つにして絶命した。
次に俺に襲い掛かってきたのは、剣と槍を持った2頭のオークだった。
まず槍を持ったオークが、ブヒッと気合いの声を上げながら俺に突き掛かってくる。
しかし槍術などかじっているはずもないオークの振るう槍は、普通の兵士程度の技量を持っていれば、軽くかわすかいなすだろうが、残念ながら俺に武術の心得は一切ない。
せいぜいが、漫画やアニメかドラマや映画のアクションシーンの受け売りだ。それにポッチャリ太めな俺は走った疲労もあり、素早くは動けない。
だから俺はあえて槍をかわすことを諦めた。
そのかわりに槍をよく見て、槍の穂先を掴みとるつもりで、左手で軽くはらに突き刺さった槍の柄を掴んだ。
同時に右手で握りしめているハルバードの穂先で、力任せに槍持ちオークの眉間を貫いて脳を破壊した。
俺が槍持ちオークの眉間を貫いたせいで、右手だけでは貫いた眉間からハルバードを抜け出せないと踏んだ剣を持ったオークが、俺の左側面へと回り込み切りかかって来たために、左手で掴んでいた槍を離して、切りかかってきた剣を左手で掴んだ後、右手に持っていたハルバードを離して、右拳を思いっきり握り込むと剣オークの鼻っ面を思いっきり殴り付けた。
もちろんそのあとに、未だに軽く腹に突き刺さっていた槍を引っこ抜いてから、剣オークの喉元に槍を突き立てて、息の根を止めた。
ゼエハアゼエハアと、剣オークの喉元に突き刺した槍を引き抜き荒い息を吐きながら呟いた。
「あと、何匹だ?」
俺は左手を犠牲にして、なんとか倒した武装オークの数を数えながら辺りの気配を探った。
確か獣耳の女の子を襲っていたオークは、ハルバード剣槍鉈斧だとしたら、斧と槍と剣はやった。ならあとは、鉈とハルバード二体か?
俺が残りのオークの数を数えていると、不意に草むらがガサガサと揺れたために、反射的に視線を草むらに向けた。
俺が視線を向けた先にいたのは、先ほど草むらに寝かしつけ、モンスターたちに見つからないように俺の汗まみれのランニングをかぶせた女の子だった。
俺は、草むらから這い出してくる少女に声をかける。
「まだ隠れてろ!」
俺の警告の声を耳にした女の子が、俺を見ながら声を大にして叫んだ。
「オーク!」
だよな。
やっぱ、この世界でも俺の見た目はオークに似ているらしい。オーク! と声を上げる女の子の言葉を聞いた俺は、スーパーマーケットの菓子売り場で、小学生が俺を見ながらオークと罵る声を思い出していた。
「やっぱ怖いよな俺っオークみたいだもんな……」
女の子の声を聞いて俺が意気消沈していると。女の子が声を張り上げて叫んだ。
「ちがうのっぶたさんっ後ろっ!」
少女の声に我に返った俺が後ろを振り向くと、俺の左肩口から背中にかけて、いつの間に手にしていたのか、オークの降り下ろした鉈が背負っていたリュックを貫き俺の体に深く食い込んでいた。
自分が、致命傷と成りうる傷を受け、大量出血をしたことを知ったことによって、驚愕に見開かれた俺の目を見てオークが一瞬口元を笑みのかたちに歪める。
「このぉっくそ豚があっ!」
俺は俺を鉈で切り裂き勝利の笑みを浮かべるオークに向かって、俺は未だに動く無事な右手で思いっきり顔面を殴りつけた。
だが、先の致命傷足り得る傷で、多量の血を失ってしまったために、力があまり入らずにオークを殴り飛ばすには至らなかった。
「くそがっ!」
俺は悪態をつきながらも、未だに力の抜けた左手に握りしめている槍を右手に持ち代えると鉈オークの口の中へと突き刺した。
俺の突き刺した槍は、オークの口から脳を突き破り、オークを意識を刈り取ることに成功した。
これで残すはあと一匹。
俺が最後の一匹を見つけようと、大量の血を失ったために朦朧とする中で意識を集中しようとするが、それを遮るようにして、女の子の警告の声が響き渡った、
「ぶたさんっ危ないっ!」
女の子の声を聞いた俺は、とっさに右手に持っていた槍で自分の首筋を狙って来た硬い金属の一撃を受け止めることに成功していた。
もし今、女の子が危険を察知して声を上げていなければ俺の首と胴は繋がっていなかったはずだった。
それほどまでに、凄まじい一撃だったのだ。
俺は何とか槍で受け止めたハルバードを押し返そうと足掻くが、血を流しすぎたために、力が入らずに押し負けて弾き飛ばされてしまう。
「があっ」
俺が手放したハルバードをいつの間にか手中に収めて手に持ったオークに、無様に弾き飛ばされた俺は、大木にしたたかに背中を打ち付けながら、その場に尻餅をついてしまう。
このチャンスを逃すまいと、ハルバードを持ったオークが大上段にハルバードを振り上げると、力任せに降り下ろしてくる。
俺は何とか両手に持った槍の腹でハルバードを受け止めるが、木製の槍の腹は、ハルバードの勢いを殺しきれなかったのか、真っ二つに折れてしまった。
その様子を見て、オークは、残忍な笑みを浮かべて再びハルバードを振り上げた。
そこへ、オークの足に先ほどまで草むらに身を隠していた女の子が噛みついて、オークの注意を何とか俺から反らそうとするが、オークは自分の足に噛みついてくる女の子を好色な目で見つめ、舌なめずりをしながら下半身を肥大化させると、俺に向き直り、さっさと死ねと言わんばかりに思いっきりハルバードを降り下ろしてきた。
ここで、俺がこの豚野郎を殺さないと、この女の子がこいつの苗床になる! それだけは、させるわけにはいかない。が、もう俺にブタの振り下ろしてくるハルバードを受け止める力も、奴を殺すだけの槍をふるう力も残されてはいないだろう。なら、やることは一つだ。
俺は、死中に活路を見出したかのように、真っ二つに折れた槍の穂先を力の入る右手で、折れた槍の尖った部分を左手で持つと、ハルバードを振り下ろしてくるオークに向かって全体重をかけて、俗にいう肉団子車のように前のめりに転がった。
オークもさすがに、無防備に前のめりに俺が転がってくるとは思っていなかったのか。振り下ろしたハルバードを空振りさせて木の幹に叩きつけて刃を食いこませてしまう。
その一瞬のスキをついて、俺は全体重のかかった前転もとい、肉団子車の勢いを利用して、渾身の力を込めた二双の槍を、オークの身に着けている鎧の隙間から肥え太った腹に向かって思い切り突き立てたのだった。
オークの腹に突き立てた二双の槍は、肥え太ったオークの腹から大量の血液を噴出させると、完全武装オークの巨体を地面に膝間づかせたのだった。
オークの噴出する大量の血液を体中に浴びながら、オークの下にいたためにオークの下敷きとなっていた自分の体を何とかオークの下から引きずり出すと、俺は近くに転がっていた手ごろな岩を両手で持ち緩慢な動作で、全体重をかけて、ハルバードオークの脳天に叩き落として止めを刺したのだった。
こうして、最後のオークの息の根を止めた俺は、その場でた折れ込むように意識を失っていった。
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