第六話 ブタっぽい俺のオーク狩り② ブタと異世界スキル
昨日も言ったが、森の中は何というか、こう日本の原生林のような感じに自然がたくさんあって、見たこともない植物や草花。鳥の鳴き声が響いていた。
そして、昨日と違って早朝ということもあってか、木々の間から、眩しいほどの朝日が差し込んできていた。
「眩しいな」
俺は皮下脂肪のために、元から細い豚目をさらに細めながら言った。
「そうだ。いいものがあった」
俺は自転車ダイエットをするときに、あるものをリュックにいれていたことを思い出して、リュックを地面に下ろすとゴソゴソと中を漁った。
「あった。あった」
しばらくしてリュックの中から俺が取り出したのは、サングラス(サンバイザー)だ。
このサンバイザーは、俺の顔の大きさに合うサングラスがなかったために、俺がサングラスの代用品として購入したものだ。
俺はリュックから取り出したサングラス(サンバイザー)を装備しながら、木々の間から差し込む朝日に目を細目ながら視線を向けると、サングラスに文字が浮かび上がる。
太陽
朝は朝日をさんさんと降り注がせて、世界に潤いと爽やかさを与え、夕方になると、おうまがときと呼ばれる不吉な光を放ち夜は眠りにつく。
「は!? なんだいまの?」
もう一度ためす。
太陽
朝は朝日をさんさんと降り注がせて、世界に潤いと爽やかさを与え、夕方になると、おうまがときと呼ばれる不吉な光を放ち夜は眠りにつく。
同じ結果が出る。
どうやら視線をこのサングラスをかけてから集中。つまり、ものを凝視すると鑑定できるらしい。
「これが世にいう異世界スキルって奴なのか?」
俺は、サングラスを外して手で触りながら呟いた。
「ま、んなこたどうでもいいか。それより朝飯っ朝飯っ」
俺はサングラスを再びかけなおすと、朝日がさんさんと降り注ぐ森の中へとルンルン気分で分け入っていった。
そうして俺が見たこともない草木の中を進んでいると、俺の鼻にくっちゃくっちゃと、動物の死肉を貪っているような音が聞こえてくる。
「オークか?」
俺は、昨日のお肉がまた食べられると思って、内心ドキドキワクワクしながら音のする方へと忍び足は、無理なので、辺りの木々に体をぶつけながら、豚のように鼻をフゴフゴ言わせながら近づいていき、肉を貪っている動物を見つけると、問答無用で手製のモーニングスター(石の入ったビニール袋)を叩きつける。
普通なら気配も消さずに近づいてきたものが放った不意打ちなど野生動物が喰らうはずがないのだが、食事に夢中になっていた野生動物は、俺のモーニングスターを頭にまともに喰らうと、そのまま動かなくなった。
「うしっ朝飯オークゲーーット!!」
俺は喜びのあまり、小躍りしながら無防備に倒した獲物へと近づいていったのだが、そんな俺のことをまるで待ちかまえていたかのように、怒りで牙をむき出しにした灰色をした狼たちの群れが、いつの間にかぐるりと、俺を取り囲んでいた。
「グルルルル・・・・・・」
仲間を打ち倒し、獲物を横取りしようと茂みから小躍りしながら飛び出してきた俺を目にした狼たちは、威嚇の声を上げてくる。
「なんだ。狼か……」
普通の精神なら狼に囲まれている。という時点で、詰んだ。と思い自分の不運を呪うんだろうけど、朝飯にオークの肉が食えると思っていた俺はがっかりしていた。
それはもう、この世の終わりというぐらいに。
しかし灰色をした狼たちは、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、いつ飛び掛かろうかと、俺を取り囲みながら「グルルルル・・・・・・」と威嚇してきていた。
「んなに威嚇されてもなぁ……狼って食えるんだっけ?」
俺は念のために先ほど試したサングラスの固有スキル鑑定を灰色の狼に向かって発動した。
灰色狼
その名の通り全身の毛が灰色で、森や山。草原に住み、集団で狩りをする。
主に狩りの獲物はネズミやウサギなどの小動物で、時折猪の子供や人間なども襲う。攻撃力は低い。そして、集団で狩りをするくせに狩りが下手なので、年がら年中飢えている。
肉も筋張っていて臭いので、臭み抜きなどをしない限り食用には向かない。
一方燻製にされ、保存食にされることもあるが、イノシシやオーク肉と比べると数段見劣りするために、普通は食さない。
鑑定結果を見て興味をなくした俺は、自分が倒した獲物がオークより味が数段劣るということを知ると、俄然やる気をなくしていた。
なぜなら、完全に朝食胃袋がオークを食うつもりになっていたからだ。
というわけで、まったく灰色狼に興味がわかなかった俺は、その場を後にした。
となればよかったのだが、残念なことに灰色狼たちは、自分たちの獲物を横取りしようとし、あまつさえ仲間をも打ち倒した俺が、灰色狼のことを無視してその場を後にしようとするなり飛び掛かってきた。
「ああもうっ俺はお前たちなんかに興味ないんだっての!」
俺が灰色狼に罵声を浴びせながら、お手製モーニングスターで飛び掛かってきたやせ細った灰色狼を叩き落とす。
俺のモーニングスターを喰らったやせ細った灰色狼は、頭をかち割られて絶命した。
仲間がやられたことに怒りを覚えたのか、灰色狼たちが次々と俺に向かって襲い掛かってきた。
「ああもう腹が減る! 俺に運動させるな!」
先ほどつまんだポテチやチョコレートやコーラ分のカロリーを消費させられた俺は、苛立たしげに叫んだ。
それから五分ほどたったころ、俺は群れで襲い掛かってきた灰色狼の半数ほどを返り討ちにしていたが、残り半数ほどが力はあるが俺の足が遅いことを知ると、小ばかにするように、俺から五メートルから十メートルほどの距離を開けながら、俺が倒した仲間の死体の肉を貪りながら、俺の後についてきていた。
「あーもううっとうしい」
といっても、灰色狼を追いかけたところで、こちらが先にへばるだけなのは、火を見るより明らかなので、俺は少し離れてあとをつけてくる灰色狼たちを無視しながら再びオーク狩りを再開した刹那。
「きゃあああああ!」
突然森の静寂を切り裂く悲鳴が上がった。
「誰かっ誰か助けてぇ! 豚の化け物がぁっ!!」
「ブタの化け物!?」
その声を聞いた俺の中でブタの化け物=オークの図式が瞬時に組みあがると共に、俺の頭の中はオーク肉一色に染まる。
俺は走り出した。
それはもう体中の脂肪をブヨンブヨンさせて、灰色狼が俺の後をつけてきていることなど度忘れして。豚の化け物! と叫び声をあげた声の出所目指して一直線に、念願のオークのお肉を目指して、猛ブタの如く駆け出していた。
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