第2話 奇怪な面接
翌朝、空は変わらず曇りのまま、今日はアルバイトも休みなので就職活動に向かおうとした時だった、ふと昨夜の荷物に目が行く。
リクルートスーツの入ったクリーニング屋のロゴの入った袋からメモが覗いていた、レシートや伝票の類を入れた覚えはない。
メモには達筆な文字が書かれていた、内容は次のようになっていた。
『このようなメモという形を取ってしまった非常識さを許して欲しい、 あんな体験の後に声をかけるのも悪いと思いメモという形を取らせて貰った、時間がある日にこの電話番号に連絡して欲しい、もしかしたら君の助けになるかもしれない、名前を伝え忘れていたのでここで名乗らせて貰いたい、私の名前は三谷勲人だ、気兼ねなく電話して欲しい』
メモの最後には電話番号が記載されていた。助けになるかもしれないという内容に私は妙に惹かれすぐに携帯を手に取った、コールは二度鳴った。
「もしもし、昨日お世話になった和戸です」
「ああ、君か!話しそびれたのでメモを仕込む形になってしまってすまないね」
この声は紛れもなくあの夜の人だった、私は要件について質問することにした。
「あのメモに書かれている''助けになるかもしれない”というのはどういう意味なのでしょうか?」
「電話では何だし直接会って話そうか?待ち合わせ場所は君に任せるよ」
私は待ち合わせ場所を考えた、彼がここ近辺に住んでいるかは定かではない、所轄の警察官達と親しく話していた所を見るに恐らく非番の警察官だと私はこの時思っていた。その推測から最低でも事件現場の地理にはくわしいはずだ。
「松平駅のカフェでいいですか?」
「ああ、いいとも。何時がいいかな?」
正直な所、藁にも縋りかった私は即答した。
「もしよろしければ今日でもよろしいでしょうか?今日の午後二時に」
「別に私は構わないよ、ではまたカフェで会おう」
私は彼の言葉に希望を抱き、すぐさまクリーニングされたてのリクルートスーツを着込み家を出ようとしてふと気が付く。
時計はまだ10時を指していた。
1時40分、リクルートスーツを着込み、待ち合わせの場所に向かう。店名は『カフェマルタ』というらしい、何度か駅を利用していたが意識しないと気づかぬものだがすぐに把握できた。
「いらっしゃいませ~」
どこからか店員の声がする、実際こう言ったところに足を運ぶのは
店内を見渡す、窓際のカウンター席には誰もおらず客は最奥のテーブル席に小柄の女性と厚着の男性が二人、その手前には彼が座っていた。昨日の夜とは大きく印象の変わるベテラン刑事を思わせる茶色いコートを着込んでいた、瞳は夜だったせいか見えなかったが非常に綺麗な銀色、日本人と外国人のハーフだろうか?
総じていぶし銀と呼ぶにふさわしい姿だ。
「勲人さんでよろしかったでしょうか?昨日お会いした、和戸尊です」
彼に話しかける。
「ああ、待っていたよ、そこに掛けてくれ」
彼は向かい側の方に座るように指示した。
「失礼します」
「飲み物、何がいい?」
「じゃあ……ホットコーヒーで」
私は早く本題に入りたかったためドリンクのメニューをサッと見て言った。
「では、率直に話すが君、今仕事を探しているだろ?君があの夜所持していたリクルートスーツを見て思ったのだが……あっているかい?」
本題はズバリその通りだった、言い換えるなら図星であった。
「……はい」
「この前の夜、君という人間を見て私はある知り合いのことを思いだしたんだ、その知り合いが探偵でね、その事務所は人手不足なんだ」
私の見立て通りだった。彼はどうやら私が所持していたリクルートスーツから就活生かフリーターと推理し自分の知り合いの抱えている問題を解決できると思いメモを忍ばせたのだ!
だがこの時こうも思った、何故彼は私を選んだのだろう?この町、いやこの都市ならいくらでも才ある人物を探しだせるはずだ、私は彼に問いかけた。投げかけずにはいられなかった。
「「なんで僕を選んだんですか?」」
予想外の展開に思考が止まる、彼に先読みされた衝撃で私の頭は軽くパニックになっていた。当の本人は口元が緩んでいる。
「すまないね、あんまりにも君が思い詰めているのを見てもう面白くてね!つい口に出したがピタリと一致したらしい」
この時私は彼の人物像が私の憧れであるシャーロック・ホームズと重なって見えてしまっていた。
「さて……本題に入るとするか、私が何故君を探偵という仕事を斡旋しようとしたかだ」
彼は話を続けた。
「理由は大きく分けて三つだ、一つ目、君が探偵に憧れているということ、これは君の名前 『わと たかし』 はホームズの相棒ワトソンから取ってつけたと推測した、君の親はよっぽど読書好きと推理好きと予想した」
正解だ。
「ということは君自身もシャーロック・ホームズ好きだと容易に推測できる、二つ目の理由は非常に高水準な推理能力だ、昨日の危機的状況の最中君は冷静さを保ち続け自身の置かれた状況をものの見事に推理しきった、私を助けた人物だという推理も実に素晴らしいものだった」
彼の話はまさしく探偵の鏡だ。
「三つ目なんだが……」
突如、饒舌だった彼が口を噤む、どうしたというのだろう?
「三つ目は君が推理してみてくれ、好きだろうそういうの?」
考えてみたがどうにも思いつかない……だが推理が好きなのは事実であった。
「仰る通りです、あの夜、貴方に出会えて本当に良かった」
つい本音が零れる、それほど私の心は荒んでいたのだ。
「あとは君の意志次第だ、知り合いにはもう話しは通してある」
「はい!ありがとうございます!」
私は決心した、この好機は逃がしてはならぬと。
「よし、じゃあ決まりだ!」
彼の表情は非常に満足しているように見えた。
「このメモの通りだ、これに書かれている日時と場所に来てほしい」
そういうと彼はメモを私に差し出し、席から立ちあがった、ガランとした店内にまだ湯気の立っているコーヒー、一口啜ると丁度いい暖かさであった。
ぐう
緊張の糸が途切れたのか昼食を取っていないことに気づく、たまの贅沢も悪くないと考え私はランチを頼み昼食を取ってから店を後にした。
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