デザイナー・ベイビー

muya

デザイナー・ベイビー




僕は秀才しゅうさいだ。


彼は生まれた瞬間からそう感じた。


確信は有った。自分は、地球上の他の誰よりも頭が良いと。


大抵の事は努力しないでも出来た。勉強でも、スポーツでも、何でもだ。


だから、良い学校に入って、エリートな人生を歩んだ。



いや、歩むつもりだった。確かに、途中迄は歩んだ。だがしかし、いきなり、それが崩れ落ちた。


**


彼が生まれてくる前、彼の両親はとある計画を立てていた。


自分達は三流大学を出たような底辺の人間だ。だから子供が優秀で有れば自分達も賞賛されるだろう。では、秀才を「作って」しまえば良いと。


両親は研究を重ねた。そして、遺伝子改造により、秀才を「作り出した」ので有った。


確かに賞賛された。幼稚園でも、小学校でも、中学校、高校、はたまた大学でも、「どうしたらこんなに優秀な子供に育てられるのか」聞かれた。その度に優越感を味わってきた。


そして、それは彼が社会に出ても続いた。とにかく優秀で有った。


だが、それはいきなり終止符を打つ-。


**


彼は或る日、会社のプレゼンの準備をしていた。


そんな時である。いきなり、資料に使う為の計算が出来なくなった。


極簡単な計算である。中学生でも解けるようなものだ。


彼は慌てた。何十回、何百回とやっても計算が出来ない。


取り敢えず、そこは飛ばして別の所をやろうとした。


が。


いつの間にか、全ての計算を飛ばしていた。そう、全てが出来なくなっていた。


一体、どうした?


小学生用の計算ドリルを取り出す。小学五年生だ。


……え?


全て出来ない。それどころか、自分の名前さえも思い出せない。


自分は疲れているのかも。今日は寝よう。


だが、それは翌日以降も続いた。


病院に行ってみると、「若年性アルツハイマー」の疑いが出た。


彼はまだ二六歳だ。だが、「若年性アルツハイマー」は誰にでもなる。


取り敢えず両親に連絡した。


両親は驚き、悲しみに打ちひしがれた。


自分達が賞賛されなくなるからだ。


だが、「作られた」ということを考えればこうなったのも当然であろう。


彼は、両親のパソコンを除いたり、仕事内容から薄々悟っていた。


自分は「作られた」のだと。だが、自分は完璧なのだからこれで良い。だから別に作られても問題は無いと。


そんな考えは、自分が壊れてから変わっていった。


**


彼の中学生時代の修学旅行。京都府と奈良県に行ったが、京都府に有った「龍安寺」。枯山水の石庭で有名な所だ。


そしてそこの石は地上では一箇所を除き、一五個有る石が一四個にしか見えない。それは、中国では「一五個=完璧=満月」となり、「完璧な物はその後は壊れる」しか無いからである。


修学旅行先で担任から教えてもらったものだ。その時の自分は「へっ、馬鹿だなぁ。完璧で壊れるって。そのまま完璧を保つ、という事を知らんのか」とおもったが、いざ自分がそうなるとは思わなかった。


彼は完璧で無くなった。自分を「作り出した」両親を恨んだ。「作り出された完璧」で無ければこうやって壊れる事も無かったのに……!


恨みに恨んで両親を殺そうと考えたが、そうしたところでどうにもならない。


だから、彼は、友人に頼んで、「完璧な両親」を作って貰った。


両親を騙して、友人の研究室迄連れて来、そこで「完璧」に作った両親の「肉体」に、未だ完璧で無い現両親の「脳」に改造を加え、完璧超人にした状態の脳を、作った肉体に入れ、将来的に自分と同じ絶望を味わわせる様にし、両親を「作った」。


彼は満足し、完璧超人に「作り上げた」両親を世に離した-。




後書き


どうでしたか?若しかしたら、後味が悪いかも知れませんね。


因みに「龍安寺の石庭」のお話は本当らしいです。私も学生時代に聞きました。

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デザイナー・ベイビー muya @kurotatane

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