脱出完了!?監禁マンションゲーム!

ちびまるフォイ

もっといい攻略法をお待ちしております

「では、監禁にはこのカードキーを使ってください」


マンションのドア横につけられているカードスロット用のカードキーが渡された。


「このマンションから誰1人外に出さなければあなたの勝利。

 賞金が手に入ります。頑張ってください」


ゲームが始まると俺はマンションの玄関前の鍵をかけた。


"ピー。ロックしました。残り5分"


「ずっとロックできないのか。5分後閉めなくちゃな」


マンションの正面出口さえ絶え間なくロックしていれば大丈夫。

マンションの一室に隠れて、部屋部屋をこっそり移動しているであろう

挑戦者がどこに潜んでいようと玄関さえ封じればそれまでだ。


「はは。こんなのなんの駆け引きにもならないな」


忘れないようにスマホのタイマーで5分おきにアラームを鳴らす。

5分たったら再び玄関のドアをロックする。


"ピー。ロックしました。残り5分"


これをゲーム終了まで続ければいい。


 ・

 ・

 ・


「……はっ、いけね。眠ってた」


スマホのアラームがあってよかった。あんまり退屈なのでうたた寝していた。


"ピー。ロックしました。残り5分"


「はい、完了と。今度は寝ないようにしないとな」


マンションは静かで人の足音も聞こえない。

きっと今ごろ挑戦者は見つからないように部屋を行き交っているか

それとも玄関で待ち構える俺を見て絶望しているか……。


「いや待てよ。もしかして窓から出るという可能性もあるか?」


玄関近くの窓に手をかけるがガッチリと鍵がかかっている。開けられない。

端には「強化ガラス」のロゴも入っているから割られないだろう。


そろそろ10分たつところなので玄関に戻る途中、1階の一部屋に鍵をかけた。


"ピー。ロックしました。残り30分"


「へぇ、部屋はロック時間長いんだ」


全室、玄関と同じように10分制限かと思っていた。

これなら挑戦者が隠れている部屋を特定して鍵をかければ楽だ。

といっても、そんなのができるとは思えない。玄関での籠城が安全だ。


……のはずだった。


玄関前に戻る途中、フロアマップに目が入った。


「ひ、非常出口!?」


正面玄関とは対極にある非常出口。正面玄関をロックして向かった。

いまの今まで気付かなかったなんて。



"ピー。ロックしました。残り5分"



「はぁ……はぁ……あ、危ねぇ……」


非常出口もロックしたが危なかった。

ムダに広いマンションだから到着にも時間かかったしドフリーに解放されていた。


「ゲームが終わってないってことはまだ脱出されてないんだな。

 今度からは気を付けないと」


スマホのアラームが鳴った。そろそろ玄関のドアが開くので慌てて戻る。


"ピー。ロックしました。残り5分"


正面玄関をロックしたと思ったら、今度は非常口のアラーム。

ふたたびダッシュして非常口をロックしたら、息も整わないまま正面口のアラーム。


「はぁっ……! はぁっ……! む、ムリだ……!

 こんなにっ……続けられないっ……!」


玄関を防ぎ続ける体力が残らない。

力尽きたら最後あっさり脱出されてしまう。部屋の特定の方が現実的だ。



"ピー。ロックしました。残り30分"



挑戦者がどの階にいるのかわからない。

いったん玄関のロックは捨てて1階~3階の部屋をロックした。


部屋数もかなりあるので、全階を網羅しようとするとロック作業中に挑戦者を見逃すかもしれない。


「よし……これで準備万端だ」


いっぺんに全部の部屋が開錠されると閉め直すのに時間がかかる。

時間をずらしながら1~3階の部屋をロックしていく。


「どの部屋に隠れてやがる……?」


これでも完璧じゃない。ロック作業をしているときに逃げ出されるかもしれない。

そこで、だんだんとロックする階を少なくしていった。


1~3階までだったのを時間経過に合わせて1~2階へ。

最後には1階だけの部屋をロックして回った。


まるで自分から隙をつくるように。



ロック作業をする部屋数を徐々に減らしたことで時間ができた。

待ち時間の間、静かなマンションに耳を澄ませて挑戦者の音をさぐる。



――カチャ


――バタン



ドアの開閉音が聞こえた。挑戦者が移動している。

マンション1階の廊下に走り戻って、わざと開けていた1室のロックをした。




"ピー。ロックしました。残り30分"



「え!? なんでわかったんだ!?」


部屋の中から挑戦者の声が聞こえた。計算通り。

1部屋だけ鍵をかけておかなければ挑戦者はこの部屋に入るしかない。

1階だけ監視しておけば突っ切られることもない。


ということに気付かれないよう1~3階へのロックも行ってきた。


「はははは! 作戦通りだ! このまま部屋の中で監禁だ!」

「ちくしょう!」



――カチャ



「……え?」


どこかでドアの開く音が聞こえた。1階は鍵が閉まっている。2階か。

すでに挑戦者は捕まえているはず。いったいどうして……。




"このマンションから誰1人外に出さなければあなたの勝利"



どうしてあんな言い方をしたのか。

まさか、挑戦者は複数潜んでいたのか!?


「まずい!! はやく玄関の鍵を閉めないと!!」


慌てて玄関へ向かう。

マンションの階段は2か所あるから挑戦者と入れ違う確率は1/2。


だったら玄関の鍵を閉めて確実に監禁するしかない。


「よっしゃ! 間に合った!!」


2階から玄関に向かうであろう挑戦者よりも先に正面玄関に到着。

すぐにカードキーを……。


「うそだろ!? カードキーがない!!」


どこかで落としたのだろうか。あれがないとロックがかけられない。

物理的に挑戦者をラグビー選手のように足止めすることはできても、

逆側の出口に行かれたらジエンド。


どうする。

どうすればいい。

どうすれば監禁できる。


今こうしている間も挑戦者は出口に向かっているかもしれない。

カードキーを入手しているかもしれない。


「これしかねぇ!!」


カードスロットを蹴って破壊した。

頑丈にできているので時間はかかったがなんとか破壊成功。

正面玄関はロックされて開かなくなった。


「次は非常出口だ!!」


体力を振り絞って反対側の出口へと猛ダッシュ。

すでにそこには出口へと向かう挑戦者の姿が見えた。


ダメだ。このままじゃ壊している時間もない。


「うおおおお!! 待てぇぇぇ!!」


出口を前に急に減速した挑戦者を追い抜いて玄関から外に出た。

ドアを力づくで閉めた。


「さぁ、開けられるものなら開けてみろ!

 これでも俺は学生時代に空手やってて力には自信あるんだ!

 ぜったいにここは開けさせない!!」


挑戦者はあきらめたように出口を見たままその場に座り込んでしまった。

そして、ゲーム終了時間がきた。


「勝った!! 賞金は俺のものだ!!」


喜んでいると、もう1人の挑戦者は笑いながら拍手をしていた。


「なんだお前、そんなに負けたのが悔しいのか」


「ちがうちがう。あんまりうまくいったから嬉しくなってねぇ」


「なんだと?」


「どうしてわざとお前を出口にたどりつかせたと思う?

 その気になれば簡単に外に出れたのに。ルールを忘れたのか?」


「なにを……」




"誰1人外に出さなければあなたの勝利"



挑戦者は嬉しそうに笑った。


「ありがとう。わざわざ外に出てくれて!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脱出完了!?監禁マンションゲーム! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ