異世界バスツアー ~俺は絶対にバスから降りないからな!~

七歌

プロローグ 運転手・大道大に対する所感


 それでは、話を始めよう。まずは主に語られる私の相棒について。


 大道 大(おおみち・ひろし)という私の相棒である男は、生真面目で常識的で――それがゆえに、世間的に見れば非常に頑なな男だった。


 世間的に、という意味が分からない? ごもっとも。世界が違えば常識も違うだろう。

簡潔に答えてしまうと、私の住む世界では、人間が当然のように異世界に行く。


 理屈なんて知らないけれど、ある日いきなり全人類ほぼ例外なくそうなってしまったというのが話に聞くところだ。世も末というか、滅びの前兆なのではないかというくらい急な展開のはずなのだけど、人間はこれを歓迎した。


 なにせ、異世界は手つかずだ。人によって行ける異世界は違うため、どの異世界もそうであるとは言えないだろうが、それなりに資源に期待ができる。みんなこぞって異世界にいき、資源を持ち帰った。異世界からの追っての心配はない。異世界の人間が単独でこちらの世界にやってくることが出来たという話は、今のところないらしいからだ。


 さらには現世でのしがらみもない。異世界へ行く能力を手に入れた人間の中には、この世界に絶対に戻らないという覚悟を持って自殺し、魂のみ異世界に行った人間もいたらしい。

 トラック自殺が流行ったそうだ。なんでも、転生が失敗する確率が低いとか、なんとか。そもそも転生が失敗したなんて話は、聞いたことが無いけども。それだけ異世界へ行く能力の確実性は高いということだろう。


 そんなわけで、世界は空前の異世界ブーム。

 どこへ行っても異世界という単語が飛び交う。

 そんな世界で大道大が何をしているかと言うと、バスの運転手をしている。

 だけど、ただの運転手ではない。その腕を見込まれた、異世界バスツアーのバス運転手を務めているのだ。

 時に危険の伴うバス運転手という仕事を、大は確実に、冷静に、こなしてきた。


 ただし。

 普通に異世界に行く世界の中で、なぜか異世界嫌いの大は、どれだけ異世界を巡っても――バスの中からは絶対に出ようとしないのだが。


 ……これから語る話は、そんな大道 大の話だ。

 語り部は、私。至らないところはあるだろうが、是非最後まで付き合って欲しい。


 最後に、自己紹介をさせてもらおう。

 私は大の乗るバス、名は『六道』。


 生まれはH●NDA、異世界を走るために作られた稀少なバスの一台である。試作機から数多の改良を重ね、そのまま正式納品となったため、振り分けられた開発番号は数知れず。ただ、『六道』という名前だけは私の中にずっと残っている。

 電子回路が詰められたとあるパーツの裏側に、『六道』という名前は彫られており、私はずっとそれを自分の名前として認識してきた。


 なぜただのバスである私が人間同様の意識をもつようになったのかはさっぱり見当がつかないが、異世界の魔術師なる人間たちが、私の電子回路になにがしかのしかけを施している様子が、最古の記憶であるから、そのあたりに理由があるのだろう。

 詳しくは知る由もないが。


 私は異世界に繋がる能力はもたないが、意識だけは異世界に飛ばすことが出来るようなので、時折こうして私から見た異世界の人間に語りかけている。

 勝手に話しかけられて迷惑? ごもっとも。

 だけどこうして意識が生まれたからにはなにごとか成し遂げたいのも事実。

 だから迷惑でも、つきあって欲しい。

 それでは、なにから話そうか――


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