渡す。

 焦る気持ちと不安が胸に渦巻く。今年こそは、と毎年思っている癖に、渡さずに終わる。その後、涙をポロポロさせながら渡すはずだったそれを食べるのが常だった。


 でも今年が最後。本当の本当の、最後だ。


 もしかすると気に入ってくれないかもしれない。


 もしかすると、受け取ってすらもらえないかもしれない。


 もしかすると……。


 あぁ嫌だ嫌だ。後ろ向きなことしか出てこない。



 人という字を掌に十回描いて飲み込む。

 そして、探していた後ろ姿を呼び止めた。



 つ、つ、つ作ったので受け取ってくだひゃ……。



 盛大に噛んだ。恥ずかしさで死にたい。走って逃げ出したい。


「……うん。ありがとう」


 笑うのをこらえながら受け取ってくれた彼をまじまじと見た。


「……受け取ってくれるんですか」


「……当たり前じゃん。やっと今年貰えたんだから」


「へ?」


 彼は誤魔化すように笑った。

 それでもう十分で、失礼しますとだけ言って脱兎のごとく帰った。



「……渡せてよかったぁ……」



 安心して力が抜けたのか、座り込んでしまった。

 渡せたことが嬉しすぎて、にへら、と頬が緩む。



 その後、友人にそれでは告白してない、と言われてやっと、なにも伝えてないことに気づき、泣きそうになるのは別の話。

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