嗚呼、◼️◼️が憎い

悪猫

第1話

「俺は、貴方世界が憎い」

………?何だろう。今、『貴方』という言葉が、私以外の何かを指していた気がする。

「どうして、そんなに憎むの?」

「ソレを知る必要は無い」

その言葉が、私が最後に聞いた言葉。そして、私が最後に見た、人生で一番綺麗だと思った光景。それが、月を背負って立つ白髪灰眼の少年の姿だった---

◇◆◇◆

「大人しく投降しろ」

「断る」

俺の周りには、甲冑に身を包んだ騎士たち。総勢、300人というところか。この程度の戦力で俺を殺せるとでも?巫山戯るのも大概にしろよ………ッ!!

「嗚呼、無理だ。我慢出来ん。もう、抑えられそうに無い」

瞬間、俺を中心に迸る桁違いな魔力の奔流。その魔力が俺と騎士団の真下に巨大な魔法陣を作り出し、結界で閉じ込めた。

「さあ、殺ろうか」

「魔法師隊!魔法撃てぇッ!!」

全方位から放たれたのは火の魔法。それらを、結界を局所展開することで防ぐ、と同時に結界が防いだ魔法の弾道を瞬時に計算し、全く同じ軌道で俺の闇の魔法がカウンターとして放たれた。魔法師隊は、魔法防御を展開したようだが、俺の魔法がその程度の魔法防御で止まるわけがない。それら全てを貫き、一瞬の攻防で、騎士団の魔法師隊が全滅した。

「なッ!?クソッ!!全体突撃ッ!!奴を逃がすなッ!!確実に殺せッ!!」

騎士団が突撃してきた。そう、それでいい。少年は、嗤う。腰に帯びる直刀を抜かずに、太腿に装備してあったナイフ---シュティル---を抜き、先頭の数人を目にも留まらぬ斬撃で首を裂いて殺す。少年は、嗤う。蹂躙はまだ始まったばかりだ、と---

◇◆◇◆

時は少し戻る。少年が気の昂ぶりを抑えきれずに魔力を放出した頃のこと。その魔力を感知した者がいた。

「ッ、向こうで大きな魔力の波動が……」

「この魔力は………!!」

「あっちに、いる?」

「シロナさん、クロエちゃん、行きますよ」

「了解です、ユキさんッ!!」

「らじゃー」

草原を歩いていた3人の少女が、少年と騎士団が戦闘を行なっている方向へ駆け出す。その速度は、風の如く。戦闘を行なっている場所までを十数分で駆け抜けた。が、しかし、そこに広がっていたのは、血の海に沈んだ300人の騎士団と、ただ一人、ソコに立ち、嗤っている白髪灰眼の少年の姿だった………

◇◆◇◆

「………雑魚ばっかだったな」

「また、殺したのですか」

また、こいつらか。毎回、俺の魔力を察知して俺のところまで来る。こいつらは、何がしたいのだろうか。

「そうだな」

「貴方は、ナニを憎んでいるのですか」

「そんなの、決まってるいるだろう?全て、だよ」

「全て?意味がわかりません」

「貴方の過去に何があったから知らないけど、復讐なんてやめたほうがいいよ。復讐は、何も生まない」

………復讐は、何も生まない?それはそうだろうさ。復讐しても、何も変わらない。せいぜい、俺の心が多少は晴れて、多くの憎しみが俺に向く程度だろうな。

「………?おにーさん、わらってる?」

わらってる?俺が?顔を触れば………ああ、確かに嗤っている。歪んだ笑みだ。

「ククッ、知ってるさ、復讐が何も生まないことくらい。けど、しなきゃ俺の気が済まない。この国は、必ず滅ぼす。それで俺が死ぬなら、それでいい。復讐を果たせるなら、な」

そう簡単には死ねないだろうけどな、と心の中でこぼす。もう、俺の体はヒトのソレではない。心臓の代わりに埋め込まれた物質化した魔力の塊である魔石の中でも特に良質な竜種の魔石。それを埋め込まれ、莫大な魔力を生み出す機関へと変えられ、肉体が耐えられるはずもない。が、薬物の大量摂取で肉体を改変し、魔物のような再生能力を持った俺の肉体は、それに耐えた。耐えてしまった。腕を切り落とされようが、半身を破壊されようが、心臓の代わりの魔石と、頭が無事なら何度でも再生する。何度も何度も薬物を投与された。毒の実験台にもされた。魔法師隊の試し撃ちの的にされたこともある。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナン度もナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドもナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモ、壊され、その度に再生する。脳に埋め込まれたチップによって俺は、逃げ出すことも命令に逆らうこともできない。抵抗しても、身体中に激痛が走ることで、阻止される。だから、俺は、隙をついて自殺した。胸の魔石を潰し、脳を破壊することで。………だが、俺は蘇った。蘇ってしまった。俺は、とうの昔に人型のナニカになっていたらしい。真っ黒な魔石が、永遠に魔力を生み出し続け、俺に力を与える。肉体強度も、すでに竜種に匹敵する。魔法も、魔法特化の魔物にも負けない。元々あった戦闘術も、肉体が強くなったことで、さらに磨きがかかった。一度死に、蘇ったことで、脳に埋め込まれたチップも消えていた。それからの行動は早かった。まず、研究所を完全に消滅させる。研究所にいた全ての生物を殺し尽くした。途中、見つけた資料に記載されていた、俺の人体実験に関与していた貴族を、家族もろとも皆殺しにした。そういえば、一人だけ不思議な奴がいたな。血に濡れたナイフを持った俺の姿を見ても怖がらず、普通に話しかけてきた貴族令嬢。まぁ、殺したが。

「そう………。貴方の言い分はわかった。生きるために魔物を殺すのはいい。けど、生きるためでも、どんな理由があろうと、人を殺すのだけは、何があっても許容できない」

「人殺しは犯罪です」

「おにーさん、わるいことした。だから、おせっきょうする。おとなしく、つかまって」

そういえば、研究所を消滅させたとき、一番最初に駆けつけたのは、こいつらだったな。………あの時、王都にいた?どうして?こんな強い奴らがこのご時世、王都にいるのはおかしくないか?………あ、ほんの少しだけ、思い出した。意図的に破壊され尽くした俺の記憶の中で、ほんの少しだけ残っている実験前の記憶。この世界に召喚された、俺たち・・・。その中にこの3人はいた。ほぼ全員が持つチート能力。だが、俺だけ、それが無かった。おそらく、すでに身につけていた戦闘術があるから、だろう。新たな力など必要ない、と判断されたのだろう。肉体は強化されていたからな。だが、それが仇となった。おかげで、俺の黒い髪からは色が抜け落ち、真っ白になった。黒い眼も、色素が抜け、灰色になった。もう、日本人だと気づく奴はいないだろう。

閑話休題

俺は、こいつらを知っている。そうだ、こいつらの名前は、

「ユキ、シロナ、クロエ」

3人の中で一番身長が高い、黒髪をポニーテールにして、腰に打刀を帯びている凛々しい少女が、ユキ。3人の中で一番小柄で、舌ったらずな喋りをする、腰にショートソードを帯びている少女が、クロエ。アルビノ特有の白髪紅眼の儚い印象を与える、腰に打刀サイズの長ドスを帯びている少女が、シロナ。

「「!?」」

「?」

「何故、私たちの名前を……」

「どうして、貴方が私たちの名前を知っている?」

「おにーさん、わたしのことしってる?」

「ほんの少しだけ、思い出した。俺は、お前らを知っている。記憶に無いけどな」

「記憶に無い?」

「それなのに、知ってる?」

「………おにーさん、じゃない。あなたは、朔くん」

「「ッ!?朔!?」」

「待って、クロエちゃん。アイツが、朔なの?」

「嘘じゃ………無さそうね」

「ねぇ、ちがう?朔くん」

サク?いたッ!?クソッ!!頭が痛い。サク、俺の名前?嗚呼、そういえば自分の名前が何かさえわかっていなかったな、俺は。

「俺は、俺の名前がわからん。記憶に無い」

「………え?わたしたちのなまえがわかったのに?」

「嘘、でしょ………」

「確かに、朔に似てる………けど」

「俺が思い出せたのは、お前らの名前だけだな。後、この世界に召喚されたことくらいか」

「しょうかんしゃのなかで、ゆいいつどこにいるかわからなかったしょうかんしゃは、朔くんだけ」

「そうなのか。状況証拠から、俺がサク、という奴だということか。………名前がわかったのはいいな。毎回名前を聞かれた時に難儀していたからな。そうか、サクだな」

「………朔くんは、なんでこんなことしてるの?けんきゅうじょで、ないてたのに」

「そういえば、研究所で見た貴方は、泣いていた」

「あ、確かに。あれは、何で泣いてたのかしら?」

「………ん?嗚呼、あの時か。簡単なことだ。絶望したんだよ。自分が完全に、ヒトでは無いことを理解してしまったから」

そう、俺はヒトでは無い。研究所を消滅させた後、俺は自分の体について色々試した。結果、おそらく不死身だということ、無限に近い魔力を持ってること、現在進行形で俺の体が強靭になり続けていることも、わかっている。

「人じゃない?意味がわからない。貴方はどっからどう見ても人でしょ?」

「何をもって人じゃないのか、教えて欲しいね」

俺の言葉に、ユキとシロナの2人が反論したが、次のクロエの言葉に、沈黙した。

「………ふたりとも、朔くんのまとうふんいきが、にんげんのソレじゃないことにきづいてないの?」

「「………」」

「むごんは、こうていとみなす、よ?」

2人とも、気づいていた。少年の纏う雰囲気が、人間のモノじゃないことに。少年が朔だと気付き、そんなことない、とその事実に目を背けていただけだ。はっきりと言われてしまえば、反論することはできない。

「何だ、やっぱりわかってるんじゃないか。………そうだな、これだけ言っておこうか。すぐに、王都から出ろ。お前たちが助けたいと思う奴ら全員を連れて、だ。猶予は………一ヶ月だ。一ヶ月後、俺は王都に襲撃をかける。ターゲットは王族や兵士たち。邪魔する者は全員殺す。それが、誰であろうと、な」

「そう。わかった………」

「そっ、か………」

「………また、あえる?」

「生きていれば、また何処かで会えるんじゃないか?」

3人は、俯いている。が、俺は少しやることができたからな。もう、ここにいる必要はない。

「じゃあな」

「「「………」」」

3人は、応えなかった。

◇◆◇◆

一ヶ月後、王都。

召喚者たちのうち、数名を除いた全ての少女と、戦闘に否定的な少年たちが、王都を出立し、近くの草原で野営していた。とある少年を追っていた3人の少女がもたらした、驚くべき報告が本当なのかを確かめるために。

果たして、少年は来た。漆黒のロングコートを着て、腰に鍔なしの直刀を帯び、太腿にナイフを装備した少年が。

少年は門まで来ると、いつ取り出したのか、ブーツナイフと呼ばれるナイフを門衛に投擲した。二本のナイフは、寸分違わず門衛の頭を貫き、王都の外壁に突き刺さった。必然、その場が騒がしくなる。商人を護衛していたのであろう冒険者たちが少年に攻撃するが、少年の魔法により、一撃で葬られる。

少年に攻撃する者がいなくなると、少年は王都へと入っていった---

◇◆◇◆

俺は、宣言通りアレから一ヶ月後に王都へ襲撃をかけた。門衛を投擲で殺すと、商人を護衛していたらしい冒険者たちが攻撃してきたため、攻撃してきた者を殺す。俺に攻撃する者がいなくなったのを確認すると、王都へと入っていく。王都は、俺のせいで阿鼻叫喚の状態だったが、攻撃してくる者だけを殺しながら王城に向かう。王城に着いた頃には、この国の騎士団の三分の一近くを殺していた。王城の門番も殺すが、城へ続く橋を上げられてしまった。まぁ、焦るようなことはない。腰の鍔なし直刀、椿姫を抜く。全てを飲み込むような漆黒の刀身は、光を反射することは無く、逆に、光を飲み込むようだ。俺は、椿姫に特級魔法以上の魔力を注ぎ、地面に突き刺した。

「〈天砕の太刀〉」

そして、地から天へと翔け昇った漆黒の奔流が門を完全に破壊した。堀を飛び越えると、そこには唖然とした顔のまま固まっている王都に残っていた残りの騎士団の皆さん。俺は、椿姫を一度鞘に納めると、抜刀。

「〈死の戦風デス・ブリーズ〉」

放たれたのは、可視化しても見えないほど薄い魔力の刃による斬撃。その刃が通っても戦風そよかぜが吹いたようにしか感じない。

そうして、何が起こったのかも理解できないまま、王都に残っていた騎士団が全滅した。

俺は、魔力の波をソナーのように王城に向けて放つ。

「………理解した」

内部構造、中に誰がいるのかも理解した。殺すべき相手も。再度、椿姫に魔力を注ぎ、地面に突き刺す。そして、王城に残っていた生命反応の大半が生命活動を停止した。

「後は、王と宰相だな」

この2人は、自分の手で殺す。元凶は、この2人なのだから。扉を斬り、中に入ると、先ほど確認した最短ルートで玉座の間まで駆け抜けた。

◇◆◇◆

「貴様か、王都を襲った賊というのは」

「だったら、何だ?」

「フッ、ここに来たのは間違いだったな。やれッ!!」

王の合図と同時に玉座の間のいたるところからあらわれたのは、王を守る近衛兵たち。他にも、そこそこ高ランクの冒険者や、高い実力を持つ暗殺者もいるようだ。思ってたよりも高度な隠行を使いこなしている。もう少し念入りに探っとけば良かったか?いや、気にすることじゃないか。けど---

「一度だけ、警告する。直ちに消え失せろ。さもなくば、殺す」

ここにきて邪魔が入る、ということに、俺は苛立っていた。可視化されるほどに濃密な魔力の奔流が俺の周りに吹き荒れる。

「………誰も逃げない、か。警告はした。ここにいる奴はもう、全員俺の抹殺対象だ」

そう言うと、魔力を注ぎ込んだ椿姫を床に突き刺した。そして、椿姫を中心に描かれる黒い魔法陣。発動するは、俺のオリジナル魔法。

「〈地獄葬刃〉」

刹那、玉座の間にいた王と宰相を除いた全ての生命体の真下に描かれた黒い魔法陣から漆黒の刃が飛び出し、真上にあった物体を真っ二つに斬り裂いた。必然、玉座の間に臓腑が撒き散らされ、血臭が立ち込める。

「………さて、後2人」

「な、ななななな、何だとッ!?儂が集めた精鋭たちをこうも容易くッ!?」

「何故だ、私はどこで間違えた………」

「クハハッ、自分たちが産み出したバケモノに殺される気分はどうだ?」

そう言いながら、宰相の手足を斬り落とす。

「いッ!?ギャアアアアアアアアアアアァァァァァァァアアアアァァァァァァァアアァァァァァァァアアアアァァァァァァァアアアアアアアア!?!?!?」

「五月蝿いなぁ」

トスッ、と喉を刺す。

「カヒュッ」

宰相の目からだんだんと光が消えていき………ついに、その目は光を失った。

「最後だ………」

「ヒッ!?く、来るなッ!?やめ、やめてくれ、何でも、何でもするからっ!?」

「………何でも?」

「あ、ああ!金も!装備も!女も!名誉も!儂が用意できるモノは全てお主にやるッ!!だから………」

「そうか。じゃあ、一つだけ俺の願いを叶えてくれ」

「わ、わかった。何でも言ってくれ。儂にできることなら何でも叶えてやる。それで、お主の願いとはいったい、何なのだ?」

「お前を殺すこと」

「………え?」

いつの間にか、王の心臓に突き刺さっていた黒刀。いつの間にか、目の前にいた白髪灰眼の少年。そして、少年の動きに沿って黒衣が翻り………王の首が飛んだ。

「さて、まだまだ終わりは始まったばかりだ」

トスッ、と椿姫を床に刺し、魔法陣を展開する。展開された黒い魔法陣は王城の全域を陣の内部に収めると、回転を始め---

「〈大虐殺ホロコースト〉。さぁ、コストは払った。〈代償をもって地獄に落ちろダムドサクリファイス〉」

俺が発動した魔法は二つ。一つ目は、魔法陣内の全ての肉体や生命体、精神体---つまりは、魂や霊などのこと---などすべての存在を無差別且つ完全に殺し尽くす危険極まりない特級魔法、〈大虐殺ホロコースト〉。

二つ目は、直前の魔法で殺した数によって強化率が変わる特級魔法、〈代償をもって地獄に落ちろダムドサクリファイス〉。この魔法は、魔法陣内の全てを消滅させる。強化率が低い場合は、全てを消滅させることができない場合もある。その場合は、魔方陣の中心の方だけ消滅し、外周部分は壊滅状態になる。強化率が高いにせよ、低いにせよ、その威力が凶悪であることには変わりは無い。

◇◆◇◆

王城を完全に消滅させると、大騒ぎになっている城下町の路地裏を人に見つからないように駆け抜けた。

王都から出ると、途中の草原で立ち止まった。そこに3人の少女に連れられた集団がいたから---では、ない。魔力を検知したからだ。かなり大きな魔法が、俺の真後ろで発動された。

「そこの黒コート。貴様を不法侵入並びに王殺しの罪で逮捕する。抵抗する場合は、ここで死んでもらうことになるかもしれんがな」

「集団転移、か」

そこにいたのは、統一感が皆無の様々な格好をした冒険者たち。全員武器を抜き、戦闘態勢に入っている。

「………どうしようか」

正直、捕まってもいいんじゃないかな、と思っていたりする。だって、俺にはもう、やることなんてないから。

「一つ教えてくれないか。ここで捕まった時、ちゃんと処刑してくれるんだろうな?」

「………どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。俺は、とある研究所で実験台にされていた。もし、また同じような目にあうなら、抵抗する。だが、あわないのなら、俺に抵抗するつもりは無い」

「………確約は、出来ない。どんな横槍があるか分からないからな」

「ダメだ。確約してくれないのなら、抵抗する」

交渉(?)は決裂だな。それにしても、1対多か。俺の異能力スキルが一番効果を発揮する状況だ。俺の異能力スキルは、【虐殺の真理ヴェリタスカルネージ】という。

虐殺の真理ヴェリタスカルネージ】は、俺の持つ、たった一つの異能力スキルだ。その能力は、広範囲攻撃時、又は無抵抗の相手を殺す時の攻撃の威力上昇。オリジナルの殲滅魔法を習得しやすくなる。そして、1対多の戦闘時に限り身体能力が強化される。その時、1人殺すごとに身体能力が強化されていく。というもの。

「さて、お前らはどのくらいもつんだろうな?」

魔力を解放する。魔法職の奴らが目をひんむいてる。まぁ、桁外れどころか、次元が違うレベルの魔力の差だからな。

そして、次の瞬間、俺の姿が世界・・から消えた。それを認識した瞬間、冒険者の半数が斬られた。

俺のナイフで喉を裂かれた者、魔法によって胴と頭が泣き別れした者など、様々だが、全員に共通していることは、『即死』だということだ。

『ッ!?』

俺の最大の武器は、莫大な量の魔力でも、強靭な肉体でも、ましてや、その戦闘センスでもない。世界すら欺く、隠密だ。数秒間だけ、世界そのものから認識されなくなる。存在も魔力もその全てが、である。元々持っていたこの隠密は、高い身体能力を持つことによって、その数秒間だけでも、かなりの武器になった。前はよくても数人暗殺するのが限界だったが、今ではこの通り、十数人も暗殺できるようになった。素の身体能力で亜音速まで加速できる俺の身体能力だからこそ、この隠密は凶悪な武器になったのだ。

「さて………まだやるか?邪魔をしないなら俺はどっかの秘境とか魔境とかの奥で隠遁生活を送りたいんだが?………まぁ、偶になら街に行くかもしれんが」

遺恨は残るだろう。確実に。冒険者からはとてつもないヘイトをもらうことになるだろうが、それでも俺だって無用な殺しはしたくない。既に殺しているから説得力は皆無だが、それでも俺は人を殺したくないと思ってる。だから徒労に終わる可能性があっても交渉……もはや脅迫のような形ではあるが、交渉できるならするべき、そのはずだ。

「それは………本当か?」

「元々、復讐が終わったら特にやることがないんだ。強いて言うならこの世界を破壊したいとは思うが、それをやると関係ない人が巻き込まれすぎる。だからやらない。そうすると、やることがないんだ」

「………巻き込まれすぎる?貴様、本気で言ってるのか?貴様の復讐にどれだけの人が巻き込まれたと思っている!?」

「ん………巻き込まれたのは数十人だな。いや、騎士団も入るのか?それだと数百人か?千人には満たないと思うが」

「な………!?騎士団を抜けば数十人だと言うのか!?」

「俺が殺したのは基本的に研究に関わっていた奴らだけだ。現場を見られた場合は殺したがな」

「!?まさか………あれだけの貴族が人体実験に関わっていたと言うのか!?」

「研究所にあった資料に名前があった奴らは殺したな。ん?よくよく思い出すと、貴族連中で巻き込まれたの、十人もいないな。偶然現場を見られた奴だけだから………うん、十人もいない」

「なっ………!?そんなにいたのか!?実験に加担していた奴らが!!」

「いや、俺が殺したのは基本当主だけだろ?偶にその妻も殺ったが、加担していた奴らだけだぞ?現場を見られた奴しか部外者は殺してないからな」

「馬鹿な………王国はそこまで腐っていたのか………?自分たちの召喚した少年だろう………?」

「まぁ、そういうことだから、俺は行ってもいいか?」

「あ、ああ。そうだな……いや、一つだけお願いしたいことがある」

「お願いしたいこと?」

「ああ。冒険者登録してくれないか?ランクは特殊ランクのXだ」

「メリットとデメリットは?」

「メリットは大まかに、魔物の素材や採取したものをギルドで売れるようになったり、ギルドのクエストを受けることができるようになることだな。デメリットは、アンタに関しては無い」

「ふむ………なら、その話、受けよう」

「本当か!ありがたい。早速登録しに行こうか」

「待って!朔君、そのまま消えるつもりでしょ?だから、先に少し話を聞きたいんだけど」

「この後朔君が何処に隠居するか、とか」

「わたしたちのまえからいなくなるまえに、おしえて?」

「わかったよ。………少し待ってろ」

「ああ、わかった」

そう言って、3人から離れようとした瞬間、ソレは起こった。

「「「!?」」」

「強制転移か」

そして、この世界から4人は消えた。しかし、消えたのは4人だけではなかった。とあるパーティもまた、同じように強制転移させられていたのだった。

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