25 セト・トワ星系にて
セト・トワ星系。
帝国直轄領にしてトワ帝国第2の星系である。4つある《ゲート》は、いずれも帝国領に繋がっており、各々の《ゲート》近傍には巨大な中継ステーションが浮かんでいる。ステーションにはいくつもの係留施設があり、星系に出入りする際にはどんな船舶も必ず入出国審査を受けなければならない。星系の門番としての役割を担っている。
中でも帝国主星系に繋がる《ゲート》近傍にあるステーションには、通常エンジンと次元位相転移エンジンを搭載した、これも巨大な貨物旅客船が係留されており、頻繁に帝国主星系と物資の輸送を行っている。《ゲート》を使ったピストン輸送だ。
セト・トワ星系の中心にある
タケルは今、クリスと共に第4惑星、セト4の軌道上にいた。
「すまないね、エルナと離ればなれにさせて」
「仕方ないでしょう、それが手順と言われれば抵抗できませんよ」
《ミーバ・ナゴス》の所属は王家のものだが、整備・運用は軍が管理している。故に、中継ステーションではなく、帝国軍基地にある整備ドックに係留されている。そこで徹底的な検査と修理が行われる。
「検査?」
「ドナがチェックしたとはいえ、暗殺者たちが何を仕掛けたか判らないからねぇ」
一定時間後に起動する爆弾や特定の条件で発動するウィルスなどもあるらしい。また、今回の事件では内通者もいたことから、生き残った乗員やエルナの侍従たちも厳しくチェックされるという。賢人ドーアに関しては、帝国主星系にあるグラジャ大使館から飛んできた大使館員とともに、王家預かりとなった。そこで皇女暗殺未遂事件の捜査に協力することになる。
「で、
クリスの話によれば、皇帝はタケルの身柄を軍部に任せたくないらしい。もちろんドナリエルの存在もある。この有能だけれどうるさい爺さんAIは、皇族の機密事項らしい。貴族や貴族に連なる人々にはある程度知られてはいるが、一般には秘匿されているという。そういえば、自分で希有な存在とか言ってたなぁとタケルは思い出す。
「だから、タケルには
ちなみにベルナルも軍には渡さず、帝国の親衛隊に直接渡した。遺体に関しては、軍属なので軍部へと丁寧に送っている。
「ちょっと政治的な配慮って奴かな。ま、気にしないで」
「するよ」
ここまでの数日間で、タケルとクリスは軽口を言い合える程度に仲良くなっていた。
ナルクリスの家は貴族とはいえ、3代前までは違ったのだ。クリスの祖父が統一政府の大統領だった時、文明化したと判断されてトワ帝国へ組み込まれた。その時、祖父は貴族となった。そしてクリスの父の代に自治権を獲得、ガルダント星系の領主、グレード
「あ、そうそう。地上に降りる前に少し検疫を受けて貰わなくちゃならない」
「検疫?」
「あぁ、《ベルクリント》でも簡易的な検査はしたけれど、きちんと検疫を受けて貰わないと地上には降りられない。エルナにも会えない」
『とっとと素直に検疫を受けるのだ、若造』
「おっと、そういうドナもきちんと検査を受けてもらうよー」
『む』
「
『こやつから離れられるなら願ったりかなったりだ。検査を受けよう』
こうして2人とひとつのAIは、軌道上に浮かぶ医療ステーションにやってきたのだった。ここでは、星系外からやってくる来訪者の精密な検疫のほか、低重力を活かした治療なども行っている、「宇宙病院」といったところだ。
「検査には、それほど時間はかからないと聞いているよ。終わるまで待っているから安心して行ってきなよ」
クリスの言葉に頷きながら、指示された検査室に入ったタケルだったが、検査室から出て来られたのは、3日後だった。
◇
「騙したな」
「騙してないって!ほんと、本当に!」
最初は地球で受ける健康診断のようなものだったが、あれよあれよという間に集中治療室のような医療機器が並ぶ部屋に連れて行かれ、そのまま3日間軟禁状態にされてしまった。ドナリエルの存在は公にできないわりに、入れ替わり立ち替わり大勢の人にチェックされた。中には医者ではない、大学教授のような雰囲気の人間までいた。ドナリエルは機密なんじゃないのか!とタケルは思ったが、みなの関心はドナリエルではなく、タケルの持つふたつの《識章》の方だったらしい。らしい、というのは、まだ何も結果を気化されていないからだ。
確かに騙すつもりはなかったようなので、タケルはクリスのことは許した。問題はこれからのことである。3日間も調べられたということは、自分の身体に何か問題が起きているのではないか?と不安になるところだ。しかもここは地球ではない、違う星の上だ。本当ならもっと不安になって、パニックを起こしても不思議はない。しかし、タケルは妙に落ち着いていた。自分でもおかしいと思うくらい不安はない。そういえば、両親を失った事故以来、あまり不安を感じたことがない。フラジとの対戦でもそうだった。そうした自分の性格について、これまであまり深く考えては来なかったのだが……。
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