14 暗殺者の船
“それ”は考えていた。考えることしか出来ない故に。
マスターが出発してからすでに現地時間で数日が経過している。これ程長期間、マスターと離れたことはなかった。
“それ”は考えた。
マスターは簡単な任務だと言っていた。
にも関わらず任務に失敗したのか?
それとも負傷して遂行が困難になったか?
何千回何万回と、繰り返し、繰り返し考えた。さまざまな思考の果てに、ひとつの疑念が生まれた。
自分は捨てられたのではないか?
やがて、その考えが思考のほとんどを占めるようになり、“それ”は少しずつ狂っていった。
◇
ドナリエルは、エルナを護り幸せにするための機能はあっても、「探査」というスキルは持っていない。万が一に備え、姫の現在位置を探すような仕掛けはしてあるが、他人を探す必要性は、これまで考えたことも無かった。
だから、目的のものをタケルが容易に見つけたことも悔しくはない。悔しくはないが姫の役に立たなかったことが悔やまれた。
一方、タケルからしてみれば、山の中で見つからないように隠せてある程度の広さがある場所などそれ程ある訳ではなく、心当たりを手当たり次第に確認したら見つけることができたというだけのことだ。
とにかく、そう時間をかけずに見つけることができた。暗殺者が乗ってきた宇宙船を。
◇
切り立った崖の上に、少しだけ拓けた場所があった。
大型車1台分くらいのスペースは、人に見られたくないものを置いておくには最適だった。たとえ、上から見ても気がつかなかっただろう。その宇宙船は、
発見はしたものの、隣に《チットナゴス》を降ろせるような空いたスペースはなく、タケル(と、ドナリエル)は単身で乗り込むことにした。エルナは、船内でお留守番だ。
「気をつけてください」
エルナの声を背に受けて、タケルは《チットナゴス》から飛び降りる。
暗殺者の宇宙船へと近づくと、タケルの目にも宇宙船の姿がはっきりと見えるようになった。
『大きさからして、搭乗者はひとりかふたり。まぁ、
それでも侵入防止の仕掛けはあるはずだ。注意しながら、ドナリエルは表面をスキャンするとメンテナンス用のポートを見つけ、ハッキングを試みた。皇女専用AIの能力は非常に高い。瞬く間に船の制御を奪い取り、セーフティを解除してエアロックを操作した。
プシュッという軽い音とともに外扉が開く。大人がふたり入ればいっぱいになりそうな狭いエアロックにタケルが入ると外扉が閉まり、しばらくして内扉が開いた。ドナリエルは、船内に人がいないことをすでに確認している。タケルが船内に入ると、自動的に照明が灯る。船内は、ワンボックスカーくらいの広さがあった。壁に備え付けられている大小さまざまなコンテナボックスの中身は、武器なのだろうか。
エアロックの扉から、向かって左が機関室、右が操縦室らしい。タケルは操縦室へ向かう。ドアが開くと、
「座り心地は、地球のと変わらないなぁ」
その言葉がきっかけになったのだろうか?突如としてエンジンが起動し、船体が揺れる。
『これはうっかりした。どうやらAIが搭載されていたらしい』
のんびりとしたドナリエルの声。しかし、タケルにはそれに注意を払う余裕がなかった。
暗殺者の船が上空に向けて飛び立ったため、強烈なGで身体がシートに押し付けられていたからだ。
「――グゥゥッ!」
もし、タケルの身体がドナリエル(のスマートメタル)で補強されていなければ、タケルの肉体は飛び立った瞬間に潰れていたかもしれない。潰れはしなかったが、指一本動かすことができない。このまま加速が続けば、タケルの身体は──。
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