09 奇妙な共生関係
タケルが目覚めたのは、光の中だった。もう、朝か……いや、違う。この光は、エルナを包んでいたあの光と同じ……。
『目覚めたか。順調だな』
頭の中でドナリエルの声が響く。ん?頭の、中で?
『そら、もう少しだ』
光が、輝きが、少しずつ弱くなっていく。やがて、すべての光が消えた。同時に、ガラスのような透明な筒の中にいることにタケルは気付いた。その筒がゆっくりと開いていく。筒から出ようとして脚を前に出したタケルは、その場で後方に宙返りしてしまう。
ゴキッとにぶい音がして、タケルの後頭部は筒とぶつかる。
「てててっ!」
身体を丸め、後頭部を抱えたタケルの身体は、フワフワと浮きながら筒の外へと漂いだした。
『お、すまん。
ドナリエルの声が聞こえたとたん、身体が床に向かって落ちた。今度は背中を強かに打ち付けてしまう。
「ッツーーっ!ひどいなぁ。それに」
後頭部をさすりながらタケルが起き上がる。今度はフワフワと浮いたりしない。重さがある。地球人にとって、重力はあって当然のものであったが故に、タケル自身は気にも留めていなかったが、重力を操る技術をトワ帝国が持っているということだ。
立ち上がったタケルは、重要な事に気付いた。その時、ドアが開いてエルナが飛び込んできた。
「タケル様!──キャッ!」
エルナは小さな悲鳴を上げ、手で顔を隠し後ろを向く。タケルは全裸だった。慌てて大事なところを隠す。見られて――ないよね?
「あっ、あっ、あのっ、お、お召し物を……」
「は、はいっ!」
慌てるふたりの若者。ふたりとも顔が真っ赤だ。
タケルはいつの間にか近くに置かれていたローブをひっつかみ、慌てながら腕を通す。シルクのような素材でなんとなく心もとないが、全裸でいるよりはましだ。
「もう……よろしいでしょうか」
開け放たれた入り口の向こうから、エルナがおずおずと声を掛ける。
「どど、どうぞっ」
頬を赤く染めたエルナが、ドアから顔を出す。
「こちらに簡単なお食事を用意しています。どうぞ」
「は、はいっ」
どうにも気恥ずかしい。タケルはエルナを追うように部屋を出た。
エルナに続いて入った部屋は、先ほどまでの殺風景な部屋とは違って、緑の多い部屋だった。水の流れる音も聞こえる。目の前にあるテーブルには、おいしそうな食べ物やスープ、飲み物が並んで居た。
「できるだけ、地球の食材でつくりました。お口に合えば良いのですが」
「ありがとう……ございます」
食べ物を見たら、空腹感が食器を持って襲ってきた。この攻撃にはなすすべなく、席に着くなり食べ始めた。
「……おいしい」
「うれしい!見よう見まねで作ってみたんですよ。よかった~」
え?エルナは確かお姫様。わざわざボクのために?
『小僧、自分の幸運を噛みしめるがよい。このような機会はもう二度とないぞ』
またしてもドナリエルの声が、頭の中で響く。それまでの、直接鼓膜を振動させるという気持ち悪い方法で聞こえたドナリエルの声は、もっとくぐもって聞こえていたのに、今の声はやたら明瞭に聞こえる。なぜだろう?エルナの手料理を咀嚼しながら、不思議に思った。
◇
「はぁぁっ……おいしかった」
思ったよりも空腹だったようだ。テーブルの上にあった食べ物は、タケルがあらかた平らげた。エルナの手作りというポイントも高かった。
「はい。お粗末様でした。と、地球の方はおっしゃるのでしょう?」
エルナはニコニコと笑いながらタケルに話しかける。なんだかくだけた感じで、タケルは心地良さを感じていた。
「それで、あの後、どうなったのでしょう?」
一息ついたところでタケルが切り出す。あの後とは、もちろん暗殺者を倒した後のことだ。
『お前が意識を失った直後、救助艇が到着した。慈悲深い姫様は、お前を乗せてこの施設に直行し、お前を治療するよう命を下されたのだ』
ドナリエルの声が、今度は室内に響く。どこかのスピーカーを使って話しているのか。ふむふむ、AIだからなぁ。他の機械を操作するなんて、お手の物なのだろう。
「ドナ、失礼なことを言わないで。タケル様は命を懸けて私を守ってくださったのよ。その恩に報いるにはまだ足りないわ」
『申し訳ございません、姫様』
ドナリエルが謝罪し、エルナがそれを受け入れる。そしてエルナはタケルをじっと見つめながら話を続けた。
「この施設は緊急用なので十分な治療はできず、すでに3日も経過してしまいました。タケル様、申し訳ありません」
「い、いや、助かっただけでも僥倖というか、あの時は完全に死んだなぁーって思ったくらいですから、3日で治るなんてすごいですよ」
『正確に言えば、まだ完治はしておらん』
そうなのか?身体に痛みはほとんどないし、一点気になるところを除いて傷もなさそうだ。完治していないのは、内臓系か?
『骨の修復には、もうしばらく掛かる。その間、ワシがお前の骨を補助しておる』
そうか、ドナリエルの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます