勇者から魔王に転職しました! ~ありえない転落人生~
@nakako
勇者魔王を討伐す
ここは異世界ブロートに存在している魔王城の最上階。
「はあ、はあ、はあ」俺は息を切らしながら目の前に堂々と立ちふさがっている深紅の双眸を見据える。
「クククッ」喉の奥から不気味な笑い声を鳴らす深紅の双眸を持つ者を見据える。
「それしきでは我は倒せんぞ?この魔王インフェルノ様はなあああああ!」高らかに笑い声を響かせ俺を挑発する。
その挑発にのせられるように俺の体は自然と動いていく。地面に突き刺さっている聖剣を抜き構える。「あああああああ!」今度は俺が魔王城に声を響かせながら魔王に向かっていった。
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俺、播磨 サトシが何故魔王と呼ばれる物騒な生命体と戦うことになったのか……
それは三年前に遡る。三年前俺は第一志望の国公立の大学に合格して大学一年生としてそれなりに充実した毎日を送っていた。
しかし、その矢先に不幸は俺を襲った。俺は大学のキャンパス内でゆっくりとうたた寝をしていた。そんな俺の周りに金色の神々しい魔方陣が展開された。俺は魔方陣が放つ神々しい光で夢の世界から現実の世界に引き戻された。
が、その時にはもう手遅れで魔方陣は俺の体を覆い尽くしており抜け出すことも不可能だった。
せめて、周りの反応だけでも見てやろうと周囲を見渡してみたが魔方陣から放出される光が眩しすぎて何かを見ることはかなわなかった。気づいた時にはどっかのラノベで見たような王城に転移していた。
俺の転移した世界の名はブロートで国の名前はフィアンマといった。
この世界の法則などいろいろ常識を数時間によって教え込まれた後、テンプレ通り魔王とかいうまたもやどっかのラノベに存在してそうな馬鹿みたいな生命体の討伐を頼み込まれた。
そこで、そんな懇願一蹴しておけばよかったのに俺はそれをしなかったというより出来なかったといった方が正しいのかもしれない。
俺はこの世界に来て数時間。一応常識を教えてもらったと言ってもこの世界に住んでる平民よりも知識は劣っているに違いない。そんなまま王からの頼みを断ってこの世界をふらふらと放浪するよりも目標を提示されて生きていく方がよっぽど楽だったのだ。あの時の俺は……
それから、3年間俺は各地で魔物を倒して修行を重ねてついについに……魔王討伐の一歩手前までさしかかっているのだ!ちなみに魔王を倒せば元の世界への扉が開かれるとかなんとか言われた気がした。
もう3年も前の話だし、あの時は異世界転生直後で脳の認識も追いついていなかったので正確な記憶は存在していない。
そんなことに思考を馳せながら魔王への距離を着実に詰めていく。
魔王の真正面まで近づいた俺は3年間ともに時間を過ごした愛剣を思い切り振るう。
それに動じることなく魔王インフェルノは魔法を起動する。「ハイシールド」魔王の掛け声を引き金に紫色の膜が魔王インフェルノの体を包み込む。俺の全力攻撃がガチンッと音を立ててはじかれる。「甘いな……かつて我を倒しに来た勇者はこれくらいの障壁容易く打ち破ったぞ?」
「俺のほかにも勇者はいたのかよ!!」しかもそいつは容易く障壁を破壊したのかよ。俺はひびすら入れられないっていうのによ!心中で悪態をつきながら剣を振るう手は止めない。
俺の必死な表情と対比するように魔王は涼しい顔で攻撃を受け流す。
「クソックソッ!」何度攻撃しても紫色の膜は壊れる気配を一向に見せない。
魔王が障壁の中で新たな魔法を展開させる。「ヘルファイア」強大な魔法なのか先程の<ハイシールド>のように速攻で展開しない。徐々に握り拳ほどだった紅蓮の炎が大きくなっていく。
炎が大きくなっていくにつれ俺の焦りは募るばかりだ。「クソックソックソックソッ」毒を吐きながらも連続で紫色の膜に攻撃をぶつける。やはりビクともしないようだ。
そして……<ヘルファイア>の炎が人間の顔程の大きさになったとき俺は悟った。
ここで俺はこの紅蓮の炎に焼かれて無残に死んでしまうのだと。
ただ、こちらの勝手な理由で異世界に転生させられ無残に死んでいくのが余りにも癪
だ。何か功績を残さなければ死んでも死にきれない。「せめて、死ぬのならお前の体に傷の一つでもつけてやるよ」
聖剣をがむしゃらにふるい続ける。それはもう剣術とはいえないものだった。客観的に見れば子供のチャンバラごっこのようだ。
「無駄なことを……そろそろ終わりにしようか」
魔王が俺に向かって魔法を放つその瞬間が来た。紅蓮の炎が紫色の膜で大きく燻っている。
もうすぐ紫の膜を貫通して俺を燃やすのだろう。
と、思った瞬間魔王を覆っていいた紫の膜が消滅した。その隙を俺は見逃さなかった横一文字で魔王の上半身と下半身を分断する。何故魔王に隙が出来たのか……それは魔法の不万能性にある。魔法は二つ同時に発動することが出来ない。これがこの世界の常識だ。
詠唱と準備までは同時進行出来るのだが発動となるとどちらか一つの魔法を解除しなければならない。俺は魔法の不万能性に救われたのだ。
そして、俺に真っ二つに切り裂かれた魔王はというと……
俺はもがき苦しんでいると思っていたのだがそんなことはなかった。
「ありがとう。勇者よ 我を討伐してくれて…… これでやっと肩の荷がおりたよ」先程の不気味な顔とは一変優し気な笑みを湛えている。
こいつは、本当は魔王の役割を嫌がっていたのかもしれないな…… 本当の魔王はこんなに優しげな笑みを浮かべれるはずがないから……
などという甘い考えは次の魔王の言葉で綺麗さっぱり消えることとなった。
「これで我は魔王ではなくなる。今度は勇者、君の時代だ。君が次の魔王だ」
俺は耳を疑った。お、俺が魔王。「お前今なんつった!?」
「次の魔王は君だ。魔王を倒した勇者が次の魔王に就くのだ。これが伝統なのだ」
「そんな伝統知らねえわ!そんなもん知ってたら討伐なんぞ来るか!」俺は大切にしていたはずの聖剣を地面にたたきつけて死にかけている魔王を罵倒する。
「知らないのも当たり前だ。これは魔王の幹部と魔王と魔王を倒した勇者しか知りえないことなのだから」魔王の声がどんどんかすれていく。力尽きようとしているのだろう。
「お前死んでじゃねえぞ!生き返れ!死ぬなって!俺魔王なんかになりたくないぞ!ふざけんな人気者から魔王ってどんな転落人生だ!ふざけんなって!」俺の必死な呼びかけもむなしく瞼が落ちていく。そして……瞼が完全に落ちきる前に魔王が一つの言葉を口に出す。
「我、借金まみれだから返済よろしく」
とんでもないことを言い残して死んでいきやがった。
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