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「――弱いのよ。アンタはさ」
崩れ落ちた男は、佐治さんの言葉になんの反応も示さなかった。
「見ればわかるけどその体、散々鍛えたんでしょうね。でもろくに鍛えてないアタシ相手にまるで歯が立たない。トカゲを殺すことに関してもそう。おまけにその事実を受け入れる心の強さすらない――そんなアンタを救えるやつなんて、この世にいるわけないじゃないの」
佐治さんは微動だにしない男をしばらくの間、じっと見下ろしてから、不意に僕の方へ視線を向けた。そして気怠そうな足取りで歩み寄り、
「いつまでそうしてんのよ。一人で立てるでしょ? しゃんとなさいな」
佐治さんに言われて初めて僕は自分がずっと座り込んでいたことに気がついた。ゆっくりと立ち上がると、頭に力のない手が置かれた。
「――お疲れ様。後はアタシがやっとくから、アンタはもう帰りなさい」
佐治さんの疲れ切った目を直視してしまい、一瞬言葉に詰まったが、それでもなんとか口を動かす。
「あ、あの、佐治さん、そこで倒れてる――」
「わかってるわよ。殺しゃしないから安心しなさい。これでも似たようなのは何匹か知ってんの」
「そう、なんですか?」
「前に言ったと思うけどこっちは仕事でやってんの。金にならなくて害にもならないんなら放っとくに決まってんでしょ――なんだかんだ言っても日本って広いから、人に化けて普通に生きていこうってやつも、ぽつぽついたりするのよね」
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