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「楓ちゃん。今日はもう上がっていいよ」

 猛さんからそう声をかけられたのは、ビべリダエでのバイトの終了時間三十分前のことだった。

「いえ、まだ時間になってませんが」

「今日は雪子の分まで働いてもらったろう? それにお客さんだっていないし。コーヒーを淹れてあげるから、飲んでいかないかい」

 雪子さんは今日、知人に不幸があったということでビべリダエを休んでいる。仕事にも大分慣れてきたため、特に大変だとは思わなかったが、せっかくの猛さんの厚意を無碍にするわけにもいかない。

「ありがとうございます。いただきます」

 僕はエプロンを猛さんに返すと、厨房の猛さんに一番近い位置のカウンター席に座った。

手早くコーヒーの準備をしながら、猛さんがぽつりと言った。

「――楓ちゃんがうちで働いてくれてよかったよ」

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