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「……じゃあ、海で亡くなった、火津木志保ちゃんのご両親のために、あなたはずっと?」

「お父さんとお母さんのため、だけじゃありません。嫌なこともあったけど、でも、人として生きれば生きるほど、大切なものが次々に増えていきました。大切なものが増える度に、人でなくなることが難しくなっていったんです。今はもう、人以外のものにどうやってなるのか、ほとんど忘れてしまいました。さっきお見せした体の一部を変化させること、あれが精一杯なんです」

「……そうだったんですか」

 火津木さんの話を信じるのなら、彼女はトカゲといってもほとんど害のないトカゲということになるだろう。海で亡くなった火津木志保ちゃんという女の子と入れ替わったことはもちろん許されないが、その罪の重さを量れるのは火津木志保ちゃんのご両親だけだ。そしてもう一つ、気になることがある。

「火津木さん、教えてもらいたいんですが――一体何に怯えているんですか? 人間でない、あなたが」

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