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「……ごめん、この人達とは僕一人で話さなきゃ駄目なんだ。だから」

「嫌だ!! 私も一緒に行く!!」 

 梓の声は絶叫に近かった。こんな声を聞いたことは今までに一度もない。

「……これ以上心配するのは、嫌だよ……」

 梓の頬が紅潮し、目に涙が滲む。それを見ていたくなくて、僕は梓の体を抱き締めた。

「――ごめん。必ず無事に帰るから」

 嘘をついた。トカゲを相手にして必ず無事に帰るなんて、笑ってしまいそうになるほどひどい嘘だ。

(――だからこそ、僕一人で行く)

 腕の中で、ぐす、ぐす、と鼻を啜り上げる音がする。抱き締めていた腕を解くと、梓は泣いて赤くなった目で僕を見上げて、

「……危なくなったら……絶対すぐに逃げてね……あと、絶対私に連絡して……」

 しゃくり上げながらそう言った。あるいはこれが最後になるかもしれないと、梓の髪を撫で、その感触をしっかりと記憶する。

 僕は青年とトカゲと思しき女の方を向くと、

「――お待たせしました。行きましょう」

 そう言って、怪物の口へと歩を進めた。

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