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「……えっと、梓、嫌、だったかな?」
「嫌じゃない!! 絶対嫌じゃないから!! いや、でもその、どうして、急に楓から?」
どうして、と言われると困ってしまう。あえて言葉にするとしたら梓を抱き締めなければ耐えられそうになかったから、という風になるのだろうけど、流石にそれを梓本人に伝えるのは厳しいものがある。
そこでふと、僕は以前梓が言ったことを思い出した。
「僕も、梓のことを抱き締めたくなったんだ」
「……ふえっ!?」
(……ふえ?)
またも梓はよくわからないリアクションをした。梓から抱き締めるのはよくて、僕から抱きしめるのは駄目なのだろうか。
「少し、このままでいてもいいかな」
「は、はいっ!!」
(……はい?)
梓のリアクションに疑問を抱きつつ、梓が支えられるだろう、という程度に体重を預け、梓の肉体の温かさと軟らかさを感じる。たったそれだけのことで、沈み切っていた気持ちが確かに楽になった。
――頭を撫でられる感触。
「……梓?」
「あっ! 嫌だった!? ごめんなさい!!」
答える瞬間、まるで心だけが、子供の頃に戻ってしまったかのようだった。
「――ううん。もっと」
返事の代わりに、頭を撫でる動きが再開される。僕は梓の腕の中で目を閉じ、これから臨むことになる、無謀とすらいえない戦いへの決意を固めた。
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