10

(……さて、問題はここからだな)

既に真奈さんがどれだけ気難しい子なのかは十分にわかった。一体どのようにしてコミュニケーションを取っていけばいいのか――

「――何してんの、せんせー。座んなよ」

「――え?」

 真奈さんはいつの間にか椅子に座っていた。その隣には別の椅子が用意されている。

「座っても、いいの?」

「……せんせーさぁ、ママから私のことどんな風に聞いたわけ?」

 僕は真奈さんの隣の席に座りながら答えた。

「――すごく頭がいいのに、わざとテストで悪い点を取ったりして、その上何人も家庭教師を追い返してる子だ。そんな風に聞いたよ」

「……私、回りくどい言い方は嫌いな方なんだけどさ。いくらなんでもはっきり言いすぎじゃない? 私がママに新しい家庭教師から悪口言われたって告げ口したら、それだけでおしまいだってわからない?」

 ぐうの音も出なかった。だが僕は、

「――僕は真奈さんの本当の気持ちを聞き出してほしいって頼まれてここに来たんだ。そもそも、僕は人に勉強を教えられるほど勉強が得意じゃないしね。だから、誤魔化すようなことはなるべく言わないようにしようと思って」

 自分の心の内をさらけ出す。人の気持ちを操る手管もない僕が誰かの本音を聞き出したいのなら、自分のことをさらけ出す以外に方法はないと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る