(……せんせー?)

 一瞬、僕はそれが誰に向けられた言葉なのかわからなかった。

「どうしたの? 授業するんでしょ? 必要ないけど」

「――真奈! またそんな口を利いて! もうこれで何度目だと思ってるの!?」

 串矢さんが真奈さんに対して語気を荒げる。だが真奈さんは全く応えていないようだった。

「七回。ママと違って、私はきっちり覚えてるから」

 真奈さんの言葉を聞いて串矢さんの顔が怒りに歪む。しかし、これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、串矢さんは何も言い返すことはなかった。

(……なるほど。これは思っていた以上に大変かもしれない)

 僕は深々と溜め息をつきたいのをなんとか我慢すると、

「まずは、お互いに自己紹介をしよう」

 そう真奈さんに言った。

「……まぁいいけど。ママ、出てって」

 真奈さんの言葉に、串矢さんの表情が曇る。

「出ていって。早く」

 串矢さんは渋々、という顔で、

「……申し訳ありません、笹岩さん。どうかよろしくお願いします。真奈、あなたもこれ以上失礼な態度を取るんじゃありませんよ」

 そう真奈さんに言うと部屋から出ていった。

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