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水分補給を終えると、僕は梓にかねてからの要望を伝えることにした。
「梓。そろそろ外に出たいな」
「え……何か大事な用事があるの? でも、怪我をして動けないって説明すれば――」
「いや、そういうことじゃなくて、純粋に外に出たいんだよ。いつまでも部屋に閉じこもっているっていうのは、やっぱり気分がよくないから」
梓は僕が言ったことを理解するのに、数秒の時間を要したようだった。
「……わかった。じゃあ、私もついていくね」
「梓、だからそんなに何もかもやってもらうのは悪いって。もうずっと僕につきっきりなんだから梓も気分転換しないと」
「うん。だから楓と一緒に外で気分転換すればいいでしょ?」
思わず、軽い溜め息をつく。だが、恐らくどんな説得も通じないであろうことは、ここ数日間で嫌というほど理解していた。
「――それじゃあ梓、着替えを手伝ってもらえるかな」
「はい。服は適当に持ってきちゃっていい?」
「あぁ、梓に任せるよ」
梓は僕の側から離れ、洋服箪笥を開けて着替えの用意をし始めた。僕の持っている服に大したバリエーションはない。ほとんどが地味な色のシャツとパンツで、数少ない明るい色のものは全て梓が選んでくれたものだ。
(初めて一緒に服を買いに行った時は、僕があまりにも興味がないんで、喧嘩したっけな)
けれど梓は、一緒に服を買いに行くたびに必ず一着は僕が選んだものを買ってくれた。梓の教育のおかげで僕の服のセンスは格段によくなったと思う。もっとも梓から見れば、やっと多少はまともになった、という程度でしかないのだろうけど。
「楓、この組み合わせでいい?」
そう言って梓は僕に服を差し出してきた。梓にすすめられて買ったややゆったりした薄手のホワイトデニムと、自分で買った薄い水色のピンストライプのシャツの組み合わせだった。
「あぁ、大丈夫だよ。ありがとう」
着替えるためパジャマのボタンを外そうとすると、当たり前のように梓の手が伸びてくる。
「……梓、いくらなんでも着替えは」
「今更じゃない? もう体洗うのだって手伝ったんだから」
「……そうだけど」
僕が言葉に詰まっている間に、梓は手際よく僕のパジャマのボタンを外していく。パジャマを脱がせてもらい、白のTシャツとピンストライプのシャツを着せてもらう。まるで子供になった気分だった。
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