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「梓は、想像してた通りすごく軟らか――痛っ!」
僕を抱きしめている梓の両腕に力が込められる。それは大した力ではなかったが、未だにロボットのパントマイムじみた動きを強いられている僕の全身に痛みを走らせるのには十分だった。
「……わかってるよ? 楓よりも私の方がずっとお肉がついてるって。わかってるけど、でもわざわざ言わなくてもいいじゃない」
「いや、その、褒めたつもりだったんだけど」
「私にとって軟らかいは褒め言葉じゃありません」
「……ごめん」
梓は無言のまま、僕を抱きしめ続ける。女友達同士だと、こういう状況はよくあるのだろうか。
(まぁ、女の子達が体を触り合うのは珍しいことじゃないし……僕も、体に関しては一応女なわけだし)
正直、以前ほど自分が女の体である、と認めることが苦ではなくなったように思う。これに関しては本当に自身の感覚なので、なんの影響によるものかもわからないが、それでも最近は、この変化はよいことだろう、と思えるだけの余裕が出てきた。
――一瞬、同年代の女の子が着るような服装をして、梓と一緒に遊ぶ自分の姿を想像した。
(今はまだ、嫌だな)
そう、今はまだ。しかし、明日になれば、わからない。僕は一度そこで思考を断ち切ると、梓に声をかけた。
「梓、喉が渇いたから水を飲みたいんだけど、いいかな」
「ご、ごめんなさい。つい夢中になっちゃって……」
自分の体がそこまで魅力的だとはとても思えない。とはいえ、
「梓が楽しいのなら、よかった。まだなんのお礼もできてないから」
僕を抱きしめる梓の両腕に、また力が込められる。けれどそれはほんの一瞬のことで、込められた力は瞬く間に弱くなり、僕は梓から解放された。
「あ……お水、コップに注いでから、ちょっと時間経っちゃったね。入れ替えた方がいい?」
「いや、大丈夫だよ」
梓はミネラルウォーターの入ったコップを両手でそっと僕の口元まで運んでくれる。些細な抵抗として、僕はコップを持つ梓の左手に自分の右手を重ねて、コップの中身を飲んだ。梓の左手の甲から伝わる熱が、強くなったように感じた。
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