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(……なんだろう、不思議な時間だったな)
腕の中には買う予定など全くなかったぬいぐるみがある。一体自分の身に何が起こっているのか。不安は尽きない。
(……とりあえずはまぁ、相談しておいた方がいいな)
僕はぬいぐるみの入った袋を片手で持つと、空いたもう一方の手で携帯を操作した。SNSアプリを使い、目的の人物にメッセージを送る。
『すいません、佐治さん。相談したいことがあるんですが、近いうちに会えませんか?』
送ったメッセージはすぐに既読になった。その直後、今にも嘔吐しそうな顔の鳩らしきスタンプが送られてくる。
(……嫌だ、ってことだろうけど、わかり辛いな。
ここですんなりと引き下がるわけにはいかない。もしこれが喪服の女が消えたことによる影響だとしたら、佐治さん以外に頼れる人間はいないのだから。
『トカゲに関係することです。喪服の女が消えてからどうも変なんです。お願いします。相談に乗ってください』
メッセージはまたもすぐに既読になった。直後、
『アタシの頼みを聞けるっていうんならいいわよ』
(頼み? ……一体なんだっていうんだ)
そもそも貧乏な学生である僕になんの頼みがあるというのだろう。ない袖は振れないし、もしお金絡みでないとしたら全く想像ができない。しかし、僕に佐治さんの頼みを断るという選択肢はない。
『……内容にもよりますが、佐治さんには可能な限り協力します。だから相談に乗ってください』
『それじゃ今から賽ノ一駅北口のブッフェンバウムまで来なさい。あんまり待たすんじゃないわよ』
(……今から?)
なるべく早い方が助かるとは思っていたが、まさか今から相談に乗ってもらえるとは思っていなかった。それにしても賽ノ一駅で待ち合わせというところに意図的なものを感じる。
(大学からアパートに帰る途中の駅だ。偶然? ――いや、あえてそこを待ち合わせ場所にしたのか)
僕は佐治さんにどこの大学に通っているか教えていない。佐治さんはどこの大学に通っているか調べたのだろうか。そもそも佐治さんは僕のいるところに当たり前のように現れる。それは非常に、不自然だ。
(……やっぱり、何か特殊な力があるんだろうか)
喪服の女との戦いのあと、佐治さんは自分の持っている銃は玩具だ、と言った。喪服の女の強さは佐治さん曰くおまけして下の中らしいが、それでも玩具の銃でどうにかなるものだとは到底思えない。
(佐治さんにはトカゲを倒せるだけの力があるはずなんだ……でも、それだったらどうして玩具の銃で撃つなんていうふざけた真似をしたんだろうか)
疑問はそれだけではない。佐治さんはどうして僕のいるところに現れることができるのか。それもまた特殊な力のおかげなのだろうか。そして佐治さんの目の中にいた美しい真紅の獣のこと――
(駄目だ、気になることが多すぎる)
まずは佐治さんに会おうと駅に向かう。アパートの方に向かう電車に乗って普段まず降りることのない賽ノ一駅で降りる。
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