魔法世界《ヨルムンガンド》の異端児《マベリック》

大波 葵

1. - 序章 -

1-1. プロローグ

 魔法世界ヨルムンガンド

この世界では、誰もが魔法を使う事が出来る。例え、子供であっても初歩的な魔法は使用出来る。

この世界での魔法を扱える者は、大きく分けて2つに分かれる。魔導士マギカ魔法士マジシャンだ。


魔法士は自身の生命力と、自然の力エレメントを術に乗せて、事象改変を行う。

初歩的な魔法では、釜土の火を付けたり、暗いところでランタンの代わりに光の球を出したりする事が出来る。

ヨルムンガンドでは、ほぼ全員がこの魔法士である。


その為、人々の生活は魔法によるところが大きく、魔法無しでは街の生活は成り立たない。


一方、魔導士は、精霊の力を借りて事象改変を行う。

その力の規模は、都市を一つ二つ消滅させる事が出来る程である。

しかし、魔導士は精霊と意思疎通をする必要があり、人口1億を越えるヨルムンガンド全体で、

数十人ほどしか居ないと言われている上、魔導士は魔法は使用する事が出来ない。

強力な力を手にした代償に、魔法という生活スキルが使えない。

よって、魔導士は街から離れた森や山にひっそりと暮らしている。



ブンッ・・・・・・ブンッ・・・・・

エガリテ王国の首都、王都ベルンの外れの森、湖の脇に一軒の小屋がある。

湖の畔で剣を振る青年が一人。


「297・・・・298・・・・299・・・・300!!」

使い慣れた剣を鞘に戻し、手ぬぐいで汗を拭く。

毎朝、繰り返してきた日常の一コマ。

青年はから剣の腕を鍛える事に邁進してきた。

この世界で剣技はあくまで補助技能。

皆が魔法を使い生活し、街を襲ってくる魔物を魔法で退ける。

魔法が使える人にとって、剣とは「魔法が使えない状況で使う物」という認識。

剣技を磨くのは、王立騎士団のように、修練として身につける必要のある人達のみである。


「おーい、ジーク。朝食が出来たぞい」

小屋の窓から白髪の老人が声をかけてきた。

「今、行く」

ジークは端的に答えて、手ぬぐいや剣を持って小屋に向かって歩いて行く。


「今日も精が出ておったな。来週の大会は優勝出来そうか?」

こんがり焼けたパンをちぎりながら、ガロードはジークに尋ねた。

「優勝する気が無くて、剣の修練をやる奴がいると思うか?じじぃ」

ジークは、厚切りのハムを食べながら答える。

「今年もあいつが優勝すると街の奴らは思ってる。それじゃ、面白くないだろ?」

不敵な笑みを浮かべながら、横に置いてあった剣を持ち上げる。

「それに、こいつしか俺には無いからな」

使い込まれ擦り切れている持ち手、無骨な両刃のブレード、飾り気の無い鍔。

刀身の根元に埋め込まれている赤い石。

魔法士殺しマジシャン・キラー・・・それが、この剣の銘である。


剣の使い手が認識した魔法・魔導を吸収し、その特性を刀身に反映させる魔剣。

魔法士殺しと言われる特性に思われないが、銘の由来は別にある。

剣の使い手の魔力を吸収し続ける。

これが、魔法士殺しの所以である。

魔剣として存在しているにも関わらず、使い手である魔法士の能力を吸い続ける。

継戦能力を奪ってしまうが故の、魔法士殺しマジシャン・キラーである。


・・・だが、ジークにとってはこの特性は


「ジークよ。大会の申請は済ませておるのか?」

ガロードが、ジークの持つ剣を眺めながら尋ねてきた。

「今日、街に行って申請してくる予定だよ。ついでに、食料なんかも買ってくる」

剣を横に置きながら、ジークは答える。

「ほっほっほっ。なら、ついでに酒も買ってきてくれんか?そろそろ、無くなりそうなんじゃ」

好好爺然とした笑みを浮かべながら、ジークに買い物をねだってくる。

「また、呑み干したのか。この前、樽で買ってきたばかりだろ。ダメだ」

こういう時は、ガロードとジークの関係は親子の関係が逆転する。

酒に関しては、自制という言葉が自身の辞書に無いかの如く、飲みまくるガロードである。

以前、知り合いが尋ねてきたときは、一人で樽を2つ開けたほどである。

「片付けが終わったら、街に行ってくる。夕方までには帰ってくるから、

のんびり釣りでもしながら待ってろ、じじぃ」

早くも食べ終わっていたジークは、自分の皿を流しに持って行きながら、

ガロードに食事を促す。

「ふむ、では今晩は魚の煮付けで一杯やるとするか。大物を釣ってみせるぞ」

薬湯を飲みながら、ガロードはキラリと目を光らせ、自信満々に豪語する。

「ふぅ、魚は任せたぞ」

皿を洗いながら、ジークは期待せずに答えた。

ガロードは自信満々に言っているが、釣りはジークの方が得意だったりする。

ガロードが釣る魚は、大物であった例しがない。

再び、洗い物に戻りながら、肩でため息をつくジークであった。

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