魔王(とう)ちゃん、強制帰宅クエストだってよ。
紅萄 椿
第1話 ゆうしゃをきめよう!
第1-1話 はじまりとゆうしゃ
はじまりの街、【アルキエスタ】――
そう呼ばれるこの町には、いろいろな人がいる、いろいろなものがあると小さい頃から聞かされてきた。
だから俺は、ずっとこの街に憧れていたんだ。
十六歳になった今日、俺は遠い遠いこの街に、足を踏み入れた。
「すっっっっっげーーーー!!」
街の中央にある噴水の前で俺は叫んだ。
小鳥が一斉に飛び立ち、俺は注目を浴びてしまう。
「あっ、すんません、なんでもないっす」
へへへ、恥ずかしいや。
くすくすと笑われるが、視線はまばらに散っていく。
しかしだ、叫んでしまうのは当然ってもんだろう。
俺はこう見えても、お坊ちゃん育ちで、大きい街自体初めてなのだ。
それが絵本でも読んだことのある街だなんて、ワクワクがとまらない。
ふと、大きな影が俺を覆う。
見上げると、恰幅のいいおばちゃんがニカッと笑っていた。
「元気なお兄さん、ポーションはいらないかい? うちのは純正だからよく効くよ! それに今なら十個買えば一個おまけしちゃおう! どうだい??」
ほらきた。これだよこれ。
おばちゃんは百個はあろうポーションの瓶を抱えている。
絵本の主人公も旅の途中で飲んでムセこんでたっけ。
「どうだい? 一個で百イリス、十個……今なら十一個でたったの千イリスだよ」
買いたい。正直すごく買いたい。しかし……
「ど、どうしたんだいお兄さん!? 顔に血管浮き上がらせて唇噛むほど悩むことかい!?」
「か……」
「か?」
「カネがないんだ……」
おばさんは、「あらまあ」と気の抜けた声を上げる。
「済まないけれど、こっちも商売だからねえ……」
おばさんが肩を竦める。そのまま、他の商売相手を探すために踵を返した。
残念だ。また縁があったら絶対買いにいくよ。
ぐっと拳を握って誓う。
「……ああ、そうだ」
おばさんは手をエプロンのポケットに突っ込むと、なにやらチケットのようなものを取り出した。
クーポン券だろうか。
「お兄さん、カネがないなら【勇者】になる気はないかい?」
……ゆうしゃ?
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