待たせたな(イケボ) お風呂回だッ!②
これまでの人生でここまで
思い返してみても……いや、こっちにきてからこんなんばっかりだったわ。
でもさでもさ、そうは言ってもこれはどうかと思うよッ!?
「へー、さすが会員限定の高級店。何から何まで豪華だね」
「ええ、本当に。あっ、見てください姉さん! 体毛用のトリートメントだけでこんなに種類がありますよ! これ全部使い放題なんですよね?
うーん、目移りして迷っちゃいますね。自分ではとても手が届かないのばっかりですし。ふふ、嬉しい悲鳴ですね」
「そういえば、連絡すれば浴室と繋がった隣の部屋で、お風呂に入りながらマッサージ受けられるんだって! せっかくなんだしみんなで頼んでみない?」
「それはいいですね。楽しみです!」
暗く閉ざされた視界の外できゃいきゃいはしゃいでいる二人の声が響いてる。アメニティの豊富さとかにテンションが上がるとは、やっぱり女の子なんですね……。
しかし、テンションの上昇が止まることを知らない二人は、ワタシの内心も知る由がない。
気づいて良かったのか、気づかなければ良かったのか、今のワタシには分からない……でも、これだけは確信を持って言える。
――ワタシは今、岐路に立たされているッ!
いいのか……見てしまって。さらにはその……ほら、あれだよ。見るだけでもアウトな気がするのに、あまつさえ空間すら共有、果てには浴槽内での濃厚接触が予想されるッ!
――これは密ですよッ!
いや、世の男性諸君からしたら美味しい思いができる蜜な時間なんだろうけど、ワタシはそうはいかないんだ。
目蓋を開いたその時、ワタシは消えてしまった息子に胸を張っていられるのか……。
何かの拍子に性的にいいね! してしまったら、幼女の皮を盾に女性の裸体を覗き見たクソ畜生ってことで男として終わるし、見て何も感じることができなかったら、幼女に完全に侵食されたってことで男として終わる。
……どっちにしても張れる胸なんてないんだけどね。
駄目だ、これは駄目だぁ!
だってどっちにしたって最終的にワタシが傷つくじゃんッ!
いやまぁ、何も感じれないんだろうなってことは薄々気づいてはいる。
スキンシップの激しいリィルと一緒に暮らしてるんですもの、色々と接触した時に昂るものがない時点でそうなんだろうなってことは分かってるんだ。
でも、もしかしたら……万が一の可能性としてッ! 生まれたままの神秘を見ていなかったからってこともあるかもしれないんだッ!
でもそれも、見てしまったら確定してしまう。……跡形もなく消えてしまった息子。それでも
――まさにシュレディンガーの息子!
パンドラの箱が今まさに開けられようとしている!!
「どうしたのイディちゃん? なんかすっごい難しい顔してるけど。手まで合わせて……瞑想でもしてるの?」
「大丈夫です。自分と向き合っていただけなんで」
「そ、そう?」
「ええ、もう大丈夫。決心はつきました」
そうとも、迷走なんてしてない。ワタシが歩く道は既に定まっている。
――いざ、決戦の時!
「南無三!」
カァッ! と勢いよく目を開いてすぐ閉じた!
「ど、どうしたんですか? イディちゃん。急に大きな声出して……?」
「いえ、現実と向き合うはずが、現実がそこになかったもんですから」
「へ?」
待ってよ、なんでもう脱いでるのさッ!?
いや、ここは脱衣所だから脱いでるのは問題ないんだけどさ。でも目蓋を開けたら目の前に桃源郷が広がってるって、それじゃあ現実と向き合う暇がないじゃないか。
ちょっとレフェリー、これって反則じゃないの?
「ほ~ら、イディちゃんもお洋服脱ごうね。着たまんまじゃお風呂入れないよ? いつもみたいに私が脱がしてあげよっか?」
スタートの合図がないどころか接触行為まで! こんなラフプレーが許されていいですか?
いや、この場で許されないのはワタシっていう存在なのは重々承知してますよ。
だからこそ、こうやって苦悩している訳で、それを知らずに危険行為を連発してくるリィルは悔い改めて、普段から何かっていうとワタシを剥こうとするのを止めてください。
「というか、いつものはワタシの意思に関係なく行われていることなんで、まるでワタシが着替えも一人でできないみたいな言い方は止めてください」
ホント心外だからそれ。
「でも、未だにブラ着けるの下手だし、私がやってあげないとショーツの尻尾穴のリボンも結ばないことあるでしょ?」
「あ、あれは、その、ただ慣れてないだけというか、慣れるのに抵抗があるというか……」
「言い訳無用! おとなしく剥かれなさぁい!」
「お代官様ぁ!」
抵抗もする間もなく、宙に投げ出されるワタシ。っていうか目をつぶっているのに投げとばすとかどうかしてますよッ! 知らないんですか? ジェットコースターは目をつぶってた方が怖いんですよッ!? ああもう駄目だぁ!
恐怖に負けて目を開いた。ぐるぐる回る視界の中で、さっきまでワタシが着ていた服が次々と舞っていく。
――それはまるで、散り際の花びらのようで……。
儚さに涙を禁じ得なかった、主にワタシの人権のなさに対して。
「おっと」
「わふっ」
ぽふっ、と空中にいる乱舞しているワタシをゼタさんがなんでもないようにお姫様抱っこで受け止めてくれた。
そしてキメ顔で微笑みかけてくる。
こういう節々の行動に色々と滲み出てしまうくらいに、王子様系を演じるのが日常になってるんですね……。
「大丈夫ですかイディちゃん?」
「あっ、はい。お蔭さ、まで……」
お礼をしようと見上げたワタシの目の前に、お山があった。
薄っすらと柔らかそうな産毛に覆われたそれは、富士山級。見るからに張りがあって、なおかつ柔らかそうなそれには、男どもの夢が詰まっている。
――まさにおっぱい!
ワタシを抱きとめた時の衝撃にプルプルと揺れる魅力的な女性の胸部に目を奪われた、と同時に自分の中で悟りが開かれるのを感じた。
――ああ、お前はもう……旅立ってしまったんだね。
別れの言葉をかけることもできなかった。それを寂しく思わないと言ったら嘘になる……でもワタシは、お前に胸を張れないような存在にはならなかったよ。
そうとも、
そうワタシ脳裏にうかんだのは――でっかぁ!
それだった。確かにえちえちとも思うけど、それがリビドーにセ○クスドライブしなかった。
「ありがとうございました」
思わずお礼が口をついて出た。自分でも何に対して言ってるのか分からなかったけど、とりあえず感謝しなくちゃいけない気がしたんだ。
「どういたしまし……て」
ビシッと、効果音でも出てそうな具合で、ゼタさんが唐突に固まった。ワタシを地面に下ろしたまま、ある一点を見つめて丸く目を見開いていた。
「……き」
「き?」
「きゃぁあぁあああ!?!」
「わをぅ!? どどど、どうしましたッ!?」
まるで歩行者天国でストリーなキングが昇天寸前の状態だったのを目撃したような悲鳴だった。
ゼタさんはわたわた手を振りながら、黒い体毛に覆われた顔を真っ赤に染めて詰め寄ってくると、手に持っていたタオルでワタシの身体を隠した。
「いいいイディちゃん!? なんで、どうして!?」
「ななな何か問題がぁ!?」
まままさか、ワタシの中に
そんな馬鹿な。ワタシは確かに
しかし、ゼタさんのこの慌てよう……絶対に何かやらかしてしまったに違いないッ!
臨界点はとうに通り過ぎて、今にも爆発しそうなゼタさん。まだ風呂に入ってないのに沸騰しそうな顔色をして、目をぐるぐると回しながら詰め寄ってきた彼女と正対しながら、ゴクッと唾を飲み込んだ。
「――なんで下がつるつるなんですかぁ!?!」
「…………へ?」
(そこ?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます