エレベーターの中

ツヨシ

第1話

私はマンションの九階に住んでいる。


当然九階に行くには階段ではなくて、エレベーターを使っている。


そしてエレベーターから降りる時は、閉めるボタンを押しながらエレベーターを出ると言うのが癖になっていた。


エレベーターの扉が早く閉まれば、エレベーターを待っている人の待ち時間がそれだけ少なくなるという気遣いからだ。


そんなある日のこと、いつものように閉めるボタンを押してからエレベーターを降りた。


私が降りると同時に扉が閉まったのだが、その途端扉が、ドンドンドンと大きな音をたてた。


最初の音で反射的に扉を見たが、音がなると同時に扉が外に向けて少し押されていた。


私にはそれは、誰かが中から強い力で扉を叩いているように見えたのだ。


だが、そんなはずはない。


さっきまでエレベーターに乗っていたのは、私一人だけなのだから。


中には誰もいない。


――なんだろう?


私はエレベーターの専門家ではないが、何かの機械的なものではないかと考えた。



しかし扉が音を立てるという現象が、その後も連続しておきた。


何度見ても中に誰かがいて、扉を思いっきり叩いているようにしか見えなかった。


それも私が一人で乗っている時だけなのだ。


誰かが乗っていて私が先に下りた場合、正真正銘中に人がいる時は、扉が鳴ったり揺れたりすることはなかった。


――なんなんだ、いったい。


いくら考えても、納得のいく答えは見つからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る