滅亡観光社は残業手当が付きません。
猫寝
第1話
「気持ち悪くなった人は、こちらにお願いしまーす」
私は無感情に声を張り上げながら、大きめのポリバケツをいくつも並べる。
すると、まずは女の子が泣きながら走り寄ってきて、バケツの中に嘔吐した。
後に続いてさらに何人か近づいて来たので、私は予備のバケツも出して、駆け寄ってきた人たちに渡していく。
大半の子供たちが泣いたり叫んだりしてる中で、強がって笑っている子も居るが、時間が経つにつれてその表情が強張ってゆき、声を失う。
それも当然だろう。
昨日、修学旅行でやって来た異世界。
驚きの感情は町を観光してる間に興奮へと変わり、宿に泊まり、宿を経営している夫婦の優しさに触れ、二人のまだ小さな子供の可愛さに皆が笑顔になった。
そんな楽しい修学旅行の最後に見せられるのだ。
――――この異世界の滅亡を。
大量の隕石によって建物は破壊され、人々は潰され、地面は割れ、火山の噴火で世界が赤く染まる。
先程まで平和に生きて来た人達の阿鼻叫喚の声が耳から侵入し脳を殴打する感覚。
ありとあらゆる死に方をした人たちの無残な死体が目に入り、目を覆う事でしか心を守れない。
―――果たして、中学生にこれを見せることが正しいのかどうか私には解らない。
けれど仕方ない。だってこれが私の仕事なのだから。
この、滅亡観光の添乗員が、私の仕事なのだから――――
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