魔術講義~これであなたも魔術師に~

雨天紅雨

魔術の基本編

第1話 魔術と呼ばれるものの概要

 一言で魔術と口にしても、その意味合いは複数存在している。

 まずわかりやすいのが、術式とも呼ばれる、現実に実現可能な現象を具現するもの。そしてあるいは、学問としての魔術。この二つは、知識と技術のように切っては切れないものだけれど、術式を扱えない人であっても、学問を習得することは可能になっている。

 ただ、一般的には、術式そのものを指して、魔術と認識することが多い。では、術式がどのように作られるのか、その流れを簡単に。


 魔力→魔術回路→魔術構成→術式。


 必要となるのが、三つ存在する。

 テレビにおける電源、車におけるガソリンなどが代表的である〝エネルギー〟として、魔力が必要になる。けれど人として生きている以上、大小の差はあれど、魔力を持っていない者は存在しないため、問題となるのは魔力の存在をどう認識するか、だろう。

 また、自然界にも魔力は存在し、それをマナと呼ぶ。こちらは環境次第ではあるものの、ほとんどの場所において、術式が行使可能なほどの濃さを持つことはない。


 次に、魔術回路は自身の内部に存在するもので、魔力そのものを自分の適性に合わせたものに変える、そう、変換機に近い役割を果たす。そもそも目に見えるものでもなく、解明が難しいため、これ、といった正解を捉えられない。多くの役割を与えられ、術式の中心的な存在と覚えておいて欲しい。

 魔術回路もまた、ほぼ八割の人間が保持しているが、魔力そのものよりも認識が非常に難しい。イメージとしては、大きな鉄の板に無数の傷がついており、その傷を魔力が流れるものとして捉えるか、あるいは、大小を含めた複雑なダクトの連結と捉えることが多い。これを自覚するためには、自己への埋没などといった行為も必要になる。


 そして、魔術構成とは、いわゆる術式そのものの設計図である。実に精密であり、一つでも間違いがあると術式は完成しない。


 この工程を経て、術式は具現するけれど、しかし、それほど便利なものではなく、現実における世界法則ルールオブワールドを逸脱することは、ない。


 魔術が、術と定義されている以上、それは技術であり、技術とは法則の内側に留まるものだから。


 火を熾すのは、技術だ。しかし、火を熾す方法を使って水を生むことはできない。何故ならば、世界がそれを確定しているからだ。そもそも疑問を抱く必要がそこにはない。


 ただし、どうやって火を熾すべきかは、考察に値する。


 具現した現象を術式とするのならば、その現象の〝過程〟もまた、魔術師によって個人差が生じることを念頭に置かなくてはならず、それは、個性とも呼ばれるよう、本人が自分に合った手順を使う。

 どうして考察すべきかと問われれば、それこそが術式の発展になるからだ。

 走り方を理論的に知らずとも、ほとんどの人は走ることができる。しかし、速く走ろうと思えば、理屈を知る必要もあるだろう。

 こうして、いちいち現実的なたとえが入るのも魔術の特徴であり、それだけ〝現実的〟なものだと認識してもらいたい。


 では、たとえを一つ。これを学問としての魔術とも呼ぶ。


 火を熾す方法は、いくつあるだろうかと考えれば、途中で面倒にもなるだろう。

 棒と板を使う。

 メタルマッチを使う。

 ライターを使う。

 コンロのスイッチをひねる。

 いずれの方法であっても、利便性そのものに違いはあれど〝結果として〟現実には火が発生する。

 であるのならば、魔術回路を通じて構成を編み、魔力を使うことで発生したものも、これを同一であると捉えられる。

 学問ではこれを前提として、空間転移ステップの事象などを題目として、魔術の〝仕組み〟に対しての考察を続ける。簡単に言えばその理屈を、現実的なものとして分析するわけだ。詳しくは後述すると思われる。


 いずれにせよ、深く考えず、ただ術式を行使するだけならば、それほど難しいことはない。しかし、正しくそれを把握して扱うためには、仕組みの解明は必須となる。

 ――また、同時に。

 魔術師と、そう呼ばれる人間において、術式としても学問としても、魔術に対し真摯でなくてはならない。

 ゆえに。

 魔術師とは、魔術を探求する全ての者に与えられる名称でもある。

 仮に術式が使えなかったとしても、それは同じだ。



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