十七年ぶりに目にする涙
ロドリーゴ
第1話 十七年ぶりの再会
卒業してから十七年経っていたが、俺は一目見て彼女だと分かった。小学六年生の冬に彼女が見せた涙を俺は一生忘れないだろう。
「勇太くーん、久しぶり!」
俺にも声をかけてくれた。確かに小学生の間はそれなりに仲良くしていたから、話しかけてもらえるだろうとは思っていた。
「
「うん。勇太くん、今お仕事何してるの?」
「カンザキデパートに勤めてる」
俺が商品開発部でスイーツの開発や農家との交渉をしていると説明すると、美羽は「あっはは」と、昔と変わらない可愛らしい声で笑った。
「スイーツ作ってるの?! 分かった。今度カンザキデパート行ったら買うから、商品名教えてね」
俺が「うん」と一言答えたところで、美羽は他の同窓会メンバー数名から「久しぶりー!」と声をかけられ、離れて行ってしまった。
二十九歳になった元六年二組の面々。小学校を卒業してから一度も会っていない奴も大勢いる。
俺は、美羽が行ってしまってから、ほとんど誰からも話しかけられず、会場であるホテルの宴会場の端で、一人椅子に座ってビールが少し残ったグラスを持っていた。
小学生の頃、友達がいなかったわけじゃない。むしろ、勉強が割とできて、背が高くて、スポーツも得意だった俺は、クラスのリーダー的な存在だった。
だが、中学に上がると俺の身長の伸びは鈍り、百六十ちょっとで止まってしまった。それと同時にスポーツでもトップは取れなくなり、他に傑出していたものが特になかった俺は、あっという間にスクールカーストの中下層。そのまま高校生になり、まあまあ勉強し、そこそこの私立大学に進み、今の職を得た。
仕事に誇りは持っているし、やりがいも感じているが、外から見て派手な仕事じゃない。給料は低くもないが、高くもない。小学生の頃とは比べ物にならない程パッとしない男になった俺を、みんな事情は知らずとも雰囲気で何となく感じ取っているのだろう。美羽も、もう俺と話そうとする様子はない。
転落した俺と違い、美羽は当時から今に至るまでずっと、みんなのアイドル。あっちからもこっちからも声をかけられ、同窓会が始まってから喋り通しだ。
美羽の隣から離れない男もいる。小学生当時は一匹狼みたいでクールな奴だった健二。ちらっと聞いた話だと、アイツは中高と公立に通った後、超有名私大の経済学部に進学し、今はテレビ局に勤めているらしい。スーツから靴、時計に至るまで、全身高級ブランド。小学生時代とは違い、大勢の中で中心となって話題をコントロールしている。美羽の方も健二から離れようとする気配はない。
もちろん、クラスのメンバー全員がそこに集まっているわけではない。仲のいい者同士が集まったグループがいくつかあるのだが、一番人数が多くて華があるのが、健二と美羽のグループ。
この会場は、まるで社会の縮図だ。富や権力のある者に人が集まり、残りは自分の仲間とともに、細々と生き延びる。そして、落ちぶれた人間は、一人寂しく惨めに死んでいくのだ。
そんな卑屈なことを考えていると、俺のすぐ脇の扉がゆっくり開いた。音をほとんど立てずに部屋に入り、最後まで手を添えて扉を閉める。恥ずかしいのかもしれない。背の高いポニーテールの女性だが、服装はジーパンにスタジャンという、少々場違いなラフさ。かぶっていたキャップを取り外したところで、俺と目が合い、口を開いた。
「……
当時、俺を苗字で呼んでいたのはクラスで一人だけ。女子の中で一番背が高くて、体育が得意で、いわゆる男勝りな雰囲気の女の子だった。
「木村さん……久しぶり」
俺は、彼女は同窓会には来ないだろうと思っていた。みんなお互いを下の名前で呼び合っていた俺たちのクラスで、木村さんはただ一人、全員から苗字にさん付けで呼ばれ、クラスでなんとなく浮いて……いや、仲間外れにされていた。
彼女がそんな風にされたのは、俺のせいだ。
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