春告鳥
春告鳥がさえずる
玉響の響きをひたすらに重ねて
万劫のふりをして
罪深く
僕の矮小な視点から見れば
そんな罪は誤差の範囲でしかないだろう
散る桜は千歳を忘れて
転瞬の中にだけ降りそそぐ
薄くれないの細小波に見失った切望は
どこか罪に似ている
触れようとしてためらう指先は
僕の意志に反する生物としてある
きみの命を待っている
時が逆行しなければほどなくだろう
須臾の逢瀬を
八千代の中で続けたいという強慾
持ちきれない罪は際限なく増えていく
記憶媒体をいくつも繋げるなんてこと
望むべくもない
蝸角で踊る黙契のダンス・ダンス
色とりどりの幻灯が映す
ステップはたどたどしく
手を差し出す
どうぞ踊りましょう
止められない時の流れにたゆたって
嘘で
ステップ・ステップ
ずっと共に生きると誓う
真実で
無人だと聞かされていた島に
本当は人が住んでいると知った時
最後の決めのところで
一小節ずれてしまった時
幕間を繋ぐたった五分の見せ場で
僕がいたステージに届いた失笑
誰もいない海岸線に辿り着くことを
どこかで期待していた炎昼
雪にまみれた街と赤いマフラー
雪にまみれた街と不味いラーメンとセブンスター
首に貼った絆創膏はキスマークを隠すためではなく
剃刀で傷つけてしまったから
まだ思い出せる
熱に浮かされて
詩情に溺れて
倖せに凍えて
そして春が来る
茫洋たる時間の中で
かけがえのない記憶がもてあそばれる
有史以前から繰り返されてきた愚かしさは
どこまでも愛しい
歳を取れば
抱えきれないものも出る
何かを新しく抱くためには
諦念に仕事をしてもらわなきゃならない
たかだか人間に
どうして全てを持ちきれるというのか
人間に甘んじろ
自分の卑小さを自覚しながらも
閉じこもるでなく荷物を抱えて歩き出すのは
せめて反駁するふりをしたいから
すぐ翻意に絡めとられる
すっかり諦念は仕事をしているから呆れる
往く道の風景を記憶する余白すらなければ
いささか残念だと
きみが隣にいるのならなおさら
あのコミックを買い直すことはしないだろう
あの曲は僕の家にはもう流れないだろう
きみと何でもない風景を共有していくだろう
何かが零れ落ちる音を聞きながら
倖せすぎて鼓動が乱れるのは
春だからだよ
ラブソング
敬慕と劣情と愛念
旋律は地下をずっと這い
まかり間違っても逃げられやしない
これが正しいんだと責めたてる
倖せのあまりに息が苦しいのは
きみだからだよ
打ち棄てた
かけがえのないはずのものが
怨嗟に喘いでいても
それが何であるかもわからず
たぶん愛していたよと
逆撫でする
恨まれるなら
よっぽど重畳というもの
巡り巡るひととせに
何を望んでもうたかた
愛をさえずって
春告鳥の咎を
少し引き受ける
萍水のような旧懐は
澪標から遠ざかる
春潮に微睡み
潮騒に唄えば
もう忘れている
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