第7話 僕は姉に相談する
二人で涙を流し終えた後、僕たちは冷めたみそ汁を口にした。やっぱり少ししょっぱい気がした。
「姉さん、一つ聞きたいんだけど」
「あら、何かあったの? 地獄の弁護人さん」
「……ねえ、姉さん。姉さんの順応性が高すぎてついていけないんだけど」
「修業が足りないわねカツキ。それで、何があったの?」
「――実は……」
僕は今回の最終試験の対象者と話した内容について姉さんに話した。人間世界の個人情報保護法の点から考えればアウトだが、僕は地獄の弁護人、相手にどう思われるかどうかは別にして、人間世界での相談は構わないとされているためセーフだ。
すべてを聞いた姉は一言「私にはその人の気持ち、分かる気がするわ」と口にした。
「多分、簡単なことよ。その人、母さんに似ているんでしょう?」
「うん、雰囲気とか、すごく似てる。罪状もほぼ同じ。子供を守って人を殺してる」
「だったら、その人の最高の幸せのために、地獄に居る時間を極力短くしたいんでしょうね。また人間世界で愛する子供に巡り合えるように」
「なるほど、でも魂は浄化されるんだよ。等活地獄よりも厳しい地獄なんかに行ったら、より確実に……」
「それでも、可能性が0%で無いならば、ううん、そもそも浄化されて忘れてしまうとしても、母さんだったらそっちを選ぶでしょうね。子供たちを守るために人を殺すような、優しい人だもの」
姉の答えは僕の胸の内にすとんと落ちたような気がした。なるほど、確かにそう考えればあの罪人の言うことも分からなくはない。
子供が生きている間にもう一度巡り合うために、あの罪人は地獄寿命の短縮を嘆願したのだ。
「ありがとう姉さん、少し考えがまとまった気がするよ」
僕が感謝を述べると姉は少し沈黙してから、口を開いた。
「ねえカツキ、あなたの仕事って死者と会うのよね」
「うん、そうだけど、どうかした?」
「今話していた罪人は違うのかもしれないけれど、もしもいつか母さんに廻り会うことがあったらお願いがあるの」
「……何?」
「――ありがとうって伝えてほしい。後、もし母さんも私たちに巡り合いたいのであれば私の子供になって、って」
「分かったよ。――姉さんはそれで良いんだね」
「もちろんよ。心待ちにしているわ」
この日の姉と僕の会話はこれで終わった。
腹づもりは決まった。僕はあの罪人に寄り添うことにする。
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