4.稲妻のしるし(4)
部屋のドアを開けたサクシマが、一瞬立ち止まる。
「あれ?」
後ろから覗き込んだティサトは、部屋が空なのに気付いた。それから、鏡だ。
「誰も出入りしていないよな?」
サクシマが聞くと、廊下のドアの前に立っていた見張りの男はうなずいた。
「窓から逃げたのかな」
探すように指示を出すサクシマと窓を見に行くラルゴに構わず、ティサトは鏡に向かった。
縁取りに時の魔女の模様を見付け、サクシマを振り返る。
「もしかして、時の魔女が関わっているんですか?」
「ああ、あなたにもわかるんですか? こんなに正体バレバレで大丈夫なんですかね。それとも、魔女って皆知り合いなんですか?」
サクシマは呆れたように言って、鏡に触れた。すると、鏡が光り、間もなく向こうと繋がった。
白髪に緑の瞳の魔女が映る。エヌとの関わりで、ティサトは何度も会ったことがある。
「ごきげんよう、サクシマ様」
「やあ、時の魔女殿」
時の魔女は大げさに腰をかがめて挨拶し、サクシマは笑顔を崩さない。ティサトには茶番にしか見えない。
「さっきここにいた魔女殿とは話しました?」
「ええ、話しました。そして、伝言を。あの子はエヌではないから帰すように、と」
時の魔女は、貴族に仕える役を楽しんで演じているように思えた。
「ああ、そうですか……。では、承知しました、と」
サクシマは少し考えてから言った。ティサトは彼を押しのけ、鏡の前に出る。通信が切れてしまっては困る。
「待ってください、時の魔女。ティサトです。先生、お久しぶりです」
「あら、ティサト? 久しぶりね」
時の魔女はティサトを見て、驚いた声を上げた。芝居がかった慇懃な態度を消して、神秘的な緑の瞳を眇めてこちらを見る様子は、いかにも大魔女らしい尊大な雰囲気だった。
「……ふうん、そう。あの魔法はあなたね?」
ニナにかけた魔法だ。ティサトはうなずいて、
「あの子、ここにいないんですけど、どこに行ったかご存知ですか?」
「あはは、いないの? 逃げたのね」
時の魔女は声を上げて笑い、
「どこに行ったかは知らないけど、あなたは、元いた場所で待ってればいいんじゃない? あの子は勝手に戻るわ」
「それは占いですか?」
「まさか。あの子ならやりそうなことを言っただけ」
「でも探さないと、日も暮れるし」
ティサトが言うと、サクシマが横から、
「こちらで探させますよ。屋敷の人手も借りられますし。まだそんなに遠くに行ってないでしょう」
「それはだめです。また捕まえにきたと思って、あの子は余計に逃げてしまいますわ」
ティサトが言うと、鏡の近くに来たラルゴも同意した。
「ある程度の追手ならかわせるだろうしな」
「なるほど、魔女なんだな」
サクシマは納得したように言ってから、他の三人を見比べる。
「それで、あの魔女殿は一体誰なんです?」
ラルゴはティサトを見る。ティサトは時の魔女を見た。
「あの子は、魔女ニナ」
時の魔女はサクシマに言った。
「魔女エヌの娘よ」
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