生温さを手放して

おとうふ

第1話

まだ残暑が残る夜の空気。カーテンを少し開けて外を見る。


一年ぶりに彼女に会いに行く。

私の地元から高速バスに乗って片道およそ10時間。

長旅になるため一週間ほど前から支度をした。

知り合いにmixしてもらったCDをプレイヤーに入れ、モバイルバッテリーの充電、バス対策の酔い止め、使い古した鞄の買い替え。

準備は万端だった。


彼女との関係は私が短期大学に入って半年くらいの時。

その当時私に恋人がいた為授業の合間に話をするくらいだった。

半年後に恋人と別れ、時間を持て余していたため遊ぶようになった。

最初のころはお互いにスキンシップ程度にしか触れなかったものの、数か月もすれば手を繋いで街中を歩いたり、家で膝枕をしながらテレビを見るなど少しずつ目立つようになり、お酒を飲んだ時私たちは一線を越えてしまった。その後は週に2~3のペースでお互いの家もしくはホテルに通った。


彼女にとっては丁度いい相手。

付き合うわけでもなく離れるわけでもなく、生温いこの関係を彼女は続けていくために私を手放すことはなかった。

それどころか丁度いい相手だったはずの私に少しづつ本気になり始めていた。


私はあまりよくは思っていなかった。

この関係を続けてもお互いにメリットがある訳では無い。

間違いなくどちらかが我慢をして耐えなければならなくなる。それを本能的に悟っていたため自分からのめり込むことはなかった。

でも、彼女は私も彼女自身も気付かないうちに私の心を少しづつ少しづつ侵食していって気付いたときには彼女の方が少し離れ、私の方がのめり込んでいた。


「付き合っている訳では無い」

その言葉が唯一の救いだった。

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