まずは第一部完結、お疲れ様、そして、おめでとうございます。連載当初から読んでおりましたが、ついに一旦の決着がつきました。
中世程度にまで文明が後退した世界、人知を超えた化け物が跋扈し、ひっそりと生きる人々を脅かす。べっとりと重たい闇の世界を歩くのは、化け物たちの首領〈銀のけもの〉の落とし子たる廃王子・ヨルン!
彼が道中で出会う奇妙な化け物、銀の眷属や魔人たちの造形は怪しくもおぞましく、鮮やかにグロテスクに世界観を彩っていく。舞台、筋立て、主人公の造形、これぞゴシック・ダーク・ファンタジー。無残にあまたの人々が死に行く中、主人公ヨルンは苛烈な怒りと意志力で戦います。
ヨルンはいわばダークヒーローなので、戦う動機は正義のためとは異なります。それは、彼が己の敵には容赦せず、凄惨極まる報復をたびたび行う場面からも明らかでしょう。しかし、自分自身の運命の中で必死で生き足掻く姿は、決して読者たる我々の理解から遠いものではない。超常の力を持ちながらも、その悲哀と歩みは目を離せない魅力を持っています。
短くさらっとした文章で壮大な世界や、深い情感を覚えさせる作者の筆致もお見事で、もっとヨルンの旅を観ていたい、この世界を知りたいと思わされましたが、ひとまずのお休み。近況ノートで第二部の予告もされているので、再開の時を心待ちにしております。完結、ありがとうございました。