山田ゴンザレスブリーフ先生の次回作にご期待ください

ちびまるフォイ

使ってはいけないその名前

著作権委員会がやってきたのはつい昨日だった。


「あなた、昨日小説を投稿しましたね?」


「え、あ、ああそうですね」


「こちら著作権使用料となります」


―――――――

勇者 …¥1000(著作権)

英雄 …¥1000(著作権)

異世界…¥4000(著作権)

ゴブリン…\500(著作権) ...(略

―――――――


レシートにはさまざまな項目が書かれていた。


「あのこれは……?」


「あなたが書いた物語の中に、これだけの要素がありました。

 それぞれ個別に使用料が発生しますのでお支払いください」


「ま、待ってくださいよ!

 勇者や英雄やら異世界なんて誰かのものじゃないでしょう!?」


「そういった創作能力のないあなたみたいなうんこが

 二次創作、三次創作はては四次創作を産み出して

 この国からオリジナリティを奪っているんですよ!」


「え、ええ!?」


「ということで、早くお支払いください。

 あなたのお金はユニセヌへと送られます」


「あなたの名前は?」

「ユニセヌです」


「お前の財布ってことじゃねぇか!!!」


しぶしぶながら使用料を払うことにした。

こういったルールを知らなかった自分に落ち度があると納得させて。


「危なかったですね」


「なにがですか?」


「この使用料の中でも圧倒的に高額なのが主人公の名前です。

 キリトとか既存作品の主人公の名前をひとことでも使ったら

 主人公使用料が発生します」


「主人公の名前……あぶねぇ……」


「まだ主人公の名前として登録されてないものは大丈夫ですがね。

 たとえば、「テレビ」という主人公の名前は大丈夫です。

 そんな名前の主人公いないので」


幸いにも主人公の名前は「山田ゴンザレスブリーフ」だったのでセーフ。

これからはすでに使われている舞台設定ではなくいちから

世界観まで作っていこうと心に決めた。




数日後、また著作権委員会がやってきた。


「著作権委員会です。またやっちゃいましたね、著作権」


「語尾みたいにつけないでください。今度は大丈夫ですよ!?」


今度は前回の教訓からちゃんとオリジナルで作成していた。


舞台は宇宙歴9020年の別惑星にいる宇宙人が

ある日ふってきた隕石に恋をして非生命体とのラブコメ。


「もはや人間でもないですし、これまでの作品に似たものはないですよ!?」


「問題は設定じゃないんですよ。ほらここ読んでください」


著作権委員会が指さしたのは小説の一節だった。



"隕石はまるで童話に出てくるガラスの靴のように…"



ガラスの靴使用料 …¥1000


「はい徴収」


「えええ!? あくまで説明の文章ですよ!?」


「そんなことは知りません。文章に1回でも出てくれば使用料は発生するんです」


著作権委員会は「著作権」がいたるところに書かれた請求書をつきつける。


「今はネット社会で著作権の権利が軽んじられていますからね!

 厳しく取り締まらないと、オリジナリティが産まれなくなるんですよ!」


「むちゃくちゃだ!」


「主人公の名前を使わなかったところはこざかしいですね。

 シンデレラなどと1回でも出していれば、

 あなたの家計を破たんさせるだけの出費になったというのに」


他にも「真空使用料」とか「星使用料」とかで出費はかさんだ。

主人公の名前を使っていなかったとしても結局金はとられてしまう。


「こんなのおかしいですよ! これじゃなにもかけやしない!」


「創作の才能がない奴は同じことをいうんです。

 環境が悪いだの、流行が悪いだのと。

 この状況でもオリジナル作品が書ける人は書くんです」


「いるんですか!?」


「まだいないだけです」

「いねぇじゃねぇかよ!!!」


「コホン。とにかく、あなたに残された道は2つ。

 1つ、パクリだのオマージュだのパロディだの二次創作に頼らず

 ちゃんとオリジナル作品を作ること」


「もう1つは……?」


「死ね」


「落差はんぱねぇ!!」


「あなたが少しでも著作権違反をしたらこの著作権レシートを持って、

 深夜だろうがトイレだろうが必ず請求しにいきますからそのつもりで」


「そんな……」


こんな状況で創作ができるのだろうか。

いったいどこまでが二次創作でどこまでがオリジナルなのか。


その境界線もいまではよくわからない。


また新たに小説を書いた翌日に著作権委員会はやってきた。




「ま た や り ま し た ね?」




―――――――

勇者 …¥1000(著作権)

英雄 …¥1000(著作権)

異世界…¥4000(著作権)

ゴブリン…\500(著作権)

ハーレム使用料…\20000(著作権)

ゲーム …\5000(著作権)

オオカミ…\500(著作権)

異能  …\2000(著作権)

スマホ …\8000(著作権)

魔法  …\1500(著作権)

ロボット…\2000(著作権)

りんご …\500(著作権)

女神  …\1200(著作権)

貴族  …\1500(著作権)

悪魔  …\10(著作権)

神樹  …\2000(著作権)

蒸気船 …\4000(著作権)

 ...(略

―――――――


「これだけの著作権使用料を使うなんて、やけになったんですか?」


「いえ、自分の書きたいものを書いたらこんな感じになりました」


「あのですね、小説にかぎらず文章でひとことでも含まれていれば

 著作権使用料は発生します。知らなかったわけではないでしょうバカ」


「もちろん知ってます」

「ますますバーカ! バーカバーカ!」


とはいえ、著作権委員会も使用料が手に入ったことで機嫌がよかった。


「それじゃ、これからもその大して人気のない二次小説(笑)の

 著作権使用料を払ってもらいますか!」


「ところで、著作権使用料はどんな文章でも適用されるんですか?」


「当然です。作者の巻末コメントからあとがき、帯にいたるまで

 小説だけでなく目につくところにあれば著作権使用料は発生します。

 つべこべいわずにさっさと払えばいいんですよ」


「わかりました……その前に、1つだけいいですか?」


「しつこいな。いったいなんですか?」






「俺の書いた小説の主人公の名前、「著作権」っていうんです」



主人公名の大量使用により著作権委員会は破たんした。

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