OLは幻想生物を捕まえて美麗カードを作っています

shiki

第1話 プロローグ

 神崎サトコはどこにでもいるしがないのOLだ。短大卒業した後に地元のデパートに務めている。趣味は絵描き。ネットにイラスト載せている。

 地下の食品売り場で夕方のタイムセールでボロボロになって帰宅する毎日。彼氏を作る暇もない。

 友だちに合コンに誘われても着ていく服を考えたり、知らない人に笑顔を振りまくのは仕事だけで十分だと断っている。


 毎日ぐったり帰宅した後はなにもしたくない。まだ実家に住んでいるから晩ご飯を作ったり洗濯や掃除をしなくていいだけマシだった。


 ベットに横になってスマホを確認する。友人たちからのメールやSNSを開くのも後回ししてゲームを開く。

 友人たちは乙女ゲームをしているけれど、サトコは『幻想世界レノアード~カードキャプチャー~』にハマっていた。箱庭タイプとバトルを組み合わせたMMOPRGだ。美麗な画像が気にいってた。

 短大卒業したころからプレイをしていて五年になる。サトコはAランクのカードキャプチャーだが、ぼっちプレイヤーだ。


 Aランクのカードキャプチャーだったら、同盟やパーティーの勧誘が後をたたないはずなのにサトコは臨時パーティーにも参加せずにマイペースでプレーしていた。

 五年前にこのゲームが発信されたすぐに同盟に入ったが、課金して短時間で見習いキャプチャー(Fランク)から一人前キャプチャー(Dランク)になって妬まれて以来、他のプレイヤーと必要最低限の会話しかしていない。

 いまでも同盟のメンバーのことを思い出すと頭にくる。


「ゲームに重課金する女プレイヤーって、ほとんどBBAしかいないって」

「きゃっはっは。旦那に見向きされないおばさんが、オンラインで若い男にチヤホヤされたいから頑張って俺TUEEするんだよねえ。あっ、違ったBBA TUEEだった。

 あっ、別にSA-TOさんのことを言っているんじゃないからね」


 SA-TOはサトコのユーザー名だ。全然ひねりもない名前だ。

 同盟の子たちが勝手にサトコについて同盟チャットでしているけれど、当の本人は箱庭の配置やカードの強化など忙しくしていた。

「アリサちゃん、それ露骨すぎだよ」

「え~、ミキちゃんだってラインでそう言ってったじゃない?」

 このアリサは絶対サトコより年上の女性だと思う。高校生のJKって言っているけれど四六時中ゲームにインしている。

 サトコの加入していた同盟のマスターがアラサーの男性で、メンバーは二十人いる中で女性は三人だった。

 ほとんどの男性のプレイヤーはたまに絡むけれど無言の人が多かった。


 でもマスターの健一さんや副マスの純君は丁寧にアリサとミキちゃんの話相手になっていた。

 対話から、健一さんは大人の抱擁感があって、純くんはナンパ男風だけれどおもしろくて、二人ともやさしかった。

 最初は他にも女性プレイヤーがいたけれど、しばらくしていなくなった。

 ゲームを辞めたのか同盟を辞めたのか分からない。サトコは人間関係に向きもせずにゲームをしていた。でも、きっとアリサとミキちゃんに追い出されたのかと思っている。


 同盟加入するとプレイヤーたちでのアイテムやカード交換で税金が取られないでいいと言うメリットがあったけれど、デメリットもたくさんあって退団した。

 だって同盟戦で「課金BBA、アイテムの出し惜しみしているんじゃねーよ」と、アリサが個人チャットで言ってきた。アリサは個人チャットではぶりっ子絵文字は使わないし言葉も汚い。

 純君たちの男性プレイヤーにログを見せてあげたい。

 ゲーム内ではなにも考えないで楽しみたかったのに。サトコが無口だったからなんでも言っていいと思っていたのだろか。

 結局同盟チャットを無視することができなくなって退団した。それからぼっちで気ままにプレイしている。


 いつのまにかゲームをして五年たった。オンラインゲームで五年も続いているものは、それだけ人気があるのだろう。サトコも定期的に微課金して運営に貢献している。


 今夜こそは新しいイベントが出ているかな、とワクワクしながらゲームが起動するのを待つ。


(ほんと、ダンロード遅い)


 毎回新イベントが開催される度に、「新しいデーターをダンロードしています。五分待ってください」とテロップが流れる。

 普段はこの五分間他のことをするんだけれど、サトコは疲れ切っていてボーっと画面を見ていた。


「きゃっ!!」


 スマホの画面から白磁色の光が飛び出て、とっさに目を閉じる。


『選ばれしプレイヤー、レノアードを救いたまえ』


 声が聞こえたと思った途端に、頭の中を画像が次々と流れた。


 サトコがしていたゲームの世界レノアードが異世界にあった。サトコの世界でゲームの配信を止めた一年後から異世界レノアードでカードキャプチャーのハンターたちも姿を減らした。

 サトコがプレーをした時代から二百年過ぎた今、かつてプレイヤーたちが残したカードも徐々に失われていった。


 レノアードは幻想生物たちをカードに捕まえて、そのカードを使って生活している。火トカゲのカードで火をおこしたり、水河童で水をだしたり。

 現世界にいる魔獣をカードに囚われた幻想生物たちが倒す。

 カードに囚われた幻想生物の中には治癒するものや、鍛冶師、錬金師などもいる。レノアードは幻想生物たちなしに生活するのは難しい。

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