牛乳腹

 大晦日の深夜、目井めいさんは激しく悔やんでいた。

 と言ってもまあ、誰かの命に関わるようなことではない。家にある餅を全て食べ尽くしてしまったというだけのことである。


「やってしまいました。お餅のレシピを調べてみたら美味しそうなものがたくさん出てきたのでついつい全部試したくなってしまい……

 『笠地蔵』とは別の意味でお正月に食べるお餅がありません。どうしましょう。

 買いに行こうにも、近所のスーパーやコンビニは閉まってますし…… いっそ何か別の物でも食べますか……

 そうです!」


 例によって、いい考えを思いついた目井さん。早速冷蔵庫をゴソゴソして数十本の牛乳パックを取り出した。


「飲食店の営業時間の短縮や、休校による給食のお休みなどの影響で、牛乳が大量廃棄の危機だと聞いたのでたくさん買っておいたんです。これで牛乳餅でも作ってみましょうかね。

 ですが、勢い余って結構な量買っちゃったんですよね。賞味期限までに消費しきれるかどうか……


 そうです! 牛乳の成分はそのままに、ぎゅーっと凝縮させて小さい飴みたいにするんです。それでいて、口の中に入れれば味もちゃんと感じられるようにするんです。

 そうすれば大量の牛乳を、お腹いっぱいになりすぎずに摂取できるのでは!?

 お餅ではありませんが、まあたまにはこんなお正月もいいですね!」

 目井さんは早速作り始めた。




 元旦。身代みしろクリニックにて。


「今年は平和な年になるといいわねー。この後みんなと行く初詣でお願いしないと。


 あら、目井さんからお電話。

 ……分かってるわよ。どうせ変な内容なのよね。知ってるわ、もう慣れちゃったから……


 はい、身代です。

 え? 牛乳でこんな感じの飴みたいな物を作ってみたら思った通り手軽に食べられたけど、小さいからまだまだいけるって調子に乗って食べ過ぎて、結局お腹いっぱいになり過ぎた? お腹パンパンで苦しくて動けなくて、初詣行けそうにないからみんなで行ってきてくれ?

 はあ…… 分かったわ。お大事にね。


 ……はあ」


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