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直った病院が綺麗すぎて落ち着かないという点についてではない。目井さんについてだ。
何故か今日はやたらと笑わせようとしてくる。
自分は元々笑い上戸だし、面白いことが好きだ。それに目井さんは元々ユーモアのある人だ。
だがそれにしたって、「布団が吹っ飛んだ」レベルのよくあるギャグをやたらと連発するような人ではなかったはずだ。
しかも言い方も変だ。会話を楽しむというよりも、何かに追われているかのように、焦りながらギャグを言っているように見える。
それに、机に置かれた鉢植えをやたらとチラチラ気にしているようだ。
土が詰められているだけで植物が見当たらない以外は、なんの変哲もないただの鉢植え。これが何だというのだろう。
「と、いうわけなんですよ。ははは……」
そんなごまかし笑いも、どこか不自然だ。
「どうしたんですか目井さん…… そんなんじゃ笑いにうるさいこの私を笑わせることはできませんよ? 何か隠してるんですか?」
「え? い、いやあ、なんでもないですよ。うん……」
どこか残念そうな目井さん。
まだ怪しみつつも、検診は終わっていたので帰ろうと、患者様が車椅子の向きを変えようとした、その時だった。
「あ! とっておきのがありました!
以前ですね、買い物に行ったんですけどね、前から両手におたまを持った人が走ってきたんです。何かと思ったら」
「ブッ」
吹き出した患者様は、そのまま大声で笑い出した。
「あはははははは!」
「え、もう笑います?」
「あはははははは!」
「まだ話は序盤なんですが」
「あはははははは!」
「そ、そんなにツボでしたか……」
自分から笑わせようとしたくせに若干引きながら、鉢植えに目をやった目井さんはあっと声を上げた。
「生えました生えました!」
「はあ、はあ、はあ…… え、何が?」
笑いすぎて痛くなった腹を抑え、涙を拭いながら鉢植えを覗き込む患者様。
そこには、先程まではなかった数mm程度の淡い緑色の植物が顔を出していた。
「こちらですね、見た感じはそこら中に生えてる草と区別が付きにくいかもしれませんが、実は貴重な種類の草でしてね。どうしても発芽してほしかったんです。
そんなわけで、色々な方達に笑ってもらってるところだったんですよ」
「それなら下手なギャグやってないで、笑えって頼んでくれれば笑ったのに」
「はは…… 作り笑いは見抜いてしまうそうでして」
「へー、賢いんですね。とにかく、生えたなら良かったですね」
「ええ、ご協力ありがとうございました。育つのが楽しみですねー」
目井さんは嬉しそうに鉢植えの草を眺めた。
帰り道、患者様は目井さんとのやり取りを反芻していた。
(面白い生物もいるもんだなー。笑い声…… 草…… ん?)
患者様は気が付いた。
「あっ! 『草生えた』ってことか!」
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