uneasy surgery

「久しぶりですよこんな難しい手術は。全力を尽くしますがどうなることやら」


「あの…… 目井めいさん?」


「あ、ご安心を。言った通り全力は尽くすので」


「は、はあ……」


「あー、見えにくい。普段の手術ならこんなことはないのに。鏡があればいいんですけどね。できれば姿見くらいのサイズの。お持ちじゃないですか?」


「持ってないです……」


「ですよね。失礼しました。いやーまずいですぞこれは。よく即死しなかったものです」


「本当に、平気なんですよね?」


「もちろんですとも! じゃなかったら大変ですからね」


「だといいんですが、もう不安で不安で……」


「まあまあ、リラックスですよリラックス。あれ、そこに転がってるのってもしかして内臓の一部ですかね? 出ちゃいましたかね?」


「え? ひっ、ひいい!」


「ちょっと手が離せないので、拾っていただけます?」


「え、え、ええ、はいいい…… ど、どうぞ……」


「申し訳ありませんね。後でしっかり手をお洗いください」


「はいいいいい……」


「まあまあ、ご心配なく。とりあえずこれはここに縫い付けて、おおよその場所に配置してと。

 あ、間違えました。変なところをぶすりとやってしまいました」


「うわー!」


「あらららら、こんなに血が。せっかく詰め込んだ内臓もはみ出しちゃいましたね。力ずくで押し込んでと」


「ぎゃー!」


「騒がなくていいんですよ。はあ」


「う、だって、う……」


「はあ。そんなに涙目にならないで。はあ」


「……せめて、せめて黙って手術しませんか? 体力消耗しますよ?」


「申し訳ありませんが無理です。黙ったら意識飛ぶ予感がします。何度も申しあげているように、ご安心くださいな」


「でも…… でも悪いのはこっちなのに、なんで目井さんがこんなことになってるんですか!」


「あなたは悪くなんてありませんよ。はあ。崖から落ちそうになってたあなたを私がかばおうとした。でも間に合わずあなたを抱きかかえたまま背中から落っこちた。私は強く打った背中が見事に裂けて内容物がそこら中にばら撒かれましたが、あなたは無傷で済んだ。はあ。それだけのお話です。お気になさらず。はあ」


「でもそんな大怪我を……」


「これくらいなら自分で手術できますよ。以前にも経験ありますし、大丈夫です。はあ。ほら、終わりましたよ。はあ。もう問題ありません。はあ、はあ」


 とりあえず中に収まってさえいればいいというコンセプトに基づき、中身という中身が強制的に詰め込まれ、不自然に凸凹に膨らんだ背中のまま立ち上がる目井さん。


 が、それと同時に傷口を押さえ込んでいた糸が弾けとび、中身という中身が一気に噴出した。生々しい赤や桃色や黄色や白や紫に染め上げられる周囲。

「ウーッ! 何故でしょう…… 以前類似の手術を…… はあ、した際は…… はあ、はあ、うまくいきましたのに……」

 だいぶ薄くなった身体からだで腹ばいに倒れ、虫の息の目井さん。


「無茶しないで! 隣町のお医者さん呼ぶからー!」

 耐え切れず叫ぶ崖から落ちそうになった人物であった。

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