隠しコマンド

「『自分の身体からだのことは自分が一番分かってる』なんて言いますけど、そうとも限りませんからねえ」

 スーパーのフードコートで。目井めいさんはラーメンを食べながら、隣に座った中学生と雑談していた。


「そうですよね」

 うなずきながらワッフルを頬張る中学生。


「あなたのクラスの委員長さんなんかですね、右足を踏まれた状態で左耳を引っ張られると両目から虹色のビームを放ちながらフリーズしてしまう体質なのに自覚ないんです」


「え、そうなんですか…」


「ああ、しまった! 申し訳ありません、患者様のこういうこと勝手にしゃべっちゃダメですね。忘れてください」


「そんな強烈なインパクトの話、まず忘れられないと思うんですが」


「ご心配なく」


 目井さんは中学生の口にシナモンスティックを二本差し込み、右肩を鷲掴みにし、もう一方の手で両目を覆い隠し、左の耳元で「マシニトノト」と小声で囁いた。


 中学生の、直前のちょうど三分間の記憶が消えた。


「…あれ、今何の話してましたっけ? そしていつの間にシナモンがこんなところに…」


「あなたがハマってらっしゃるスマホゲームで隠しコマンドを発見して、興奮したってお話でしたよ」

 ナルトを口に運びつつ、目井さんは何食わぬ顔で言った。

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