見えないこだわり

「タトゥー、また入れてほしい図柄があるんです。こんな感じで」

 患者様はそう言って、目井めいさんに自分で描いた数枚の絵を差し出した。


「もちろんいいですよ。相変わらずセンスがいいですね。ただ、あなた既に全身に入れられているので、もう入れられるスペースがどこにもないと思うんですが…」


「フッフッフッ、まだまだですね目井さん。見えないところにこだわるのが玄人ってもんなんです」




 数日後。

「ああ、じゃあこの方はこれでいいのね!」


 手術中にとある理由で軽くパニクり、電話で目井さんに助けを求めた身代みしろは安堵の声を上げた。


「ええ、問題ありません」


「良かった。何かわたくしの知らない症状かと焦ってしまったわ」


「大丈夫そうですか? その患者様もあなたも」


「大丈夫よ。事故でお腹が大きく裂けちゃってるだけだから、無茶のない方法でちゃんと治せるわ。じゃあオペに戻るわ、ありがとうね」


 電話を切った身代は、事故によって露わになった腹部の皮膚の内側や、ありとあらゆる内臓に色とりどりのタトゥーが施された人物の治療を再開した。

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