第1話 先輩達

部室には僕以外の部員全員が揃っていた。と言っても2人だけだが...


「こんにちは」

僕は挨拶をする。

「あ、篠宮くん。こんにちは~」

先輩は、一日の疲れを吹き飛ばしてくれるような可愛くて、そして優しげな返事をしてくれた。

「...」

もう1人の先輩は読書に没頭しているようだ。


この文化研究部には、僕を含め3人が所属している。

挨拶を返してくれた美人さんは飯田 深咲先輩、三年生だ。髪は肩まで伸ばしたセミロング。背は165cmくらいだろうか、すらりとしている。さっきも言ったがもう一度言おう、美人だ。部活動なんて面倒だと思っていたのだが、初めて部室を訪れてびっくり。そこには天使がいたのだ...。まあ僕のキモい比喩表現は置いといて...。飯田先輩は明朗快活な人で、さぞかし人に好かれるのだろうなと感じた。かくいう僕もすっかりご執心である。困ったものだ。これなら“不満”を捨てなくても楽しく部活に参加できたのかもしれない。不純な理由だが、でもしょうがない、男子高校生という種族は皆が等しく、そして普遍的に、“美人の先輩”というものに心を惹かれるのだ。夕日に照らされた飯田先輩はすごく画になっていた。


そしてもう1人の部員、今も独りだけの、自分の世界にいるように本だけを見つめているのは二年生の西崎 そら先輩だ。身長は180cm弱程度だろうか、痩せていてこの人もすらりとしている、という印象を受けた。目は切れ長で、端正な顔立ちをしている。いつも虚ろな様子で、そして無口でいるので、さっき僕の挨拶に返事をしなかった時も、これが彼の個性なのだと理解していた。ちなみに“虚”という字は“そら”と読むことができるらしい...。


僕は部屋の中央に置かれた長机の、飯田先輩の向かい側に腰を下ろした。西崎先輩は飯田先輩の二つ隣に座っている。バッグから読みかけのラノベを取り出し、しおりを挟んでいた116ページを開く。主人公が学校から帰宅したシーンだ。


「そういえば篠宮くん、この間のテストどうだった?」

飯田先輩が尋ねてきた。こういう時、一番はじめに口を開くのはたいてい飯田先輩と決まっている。そして、テスト期間が終われば学生の話題は基本、テスト関係のものになる。この発言は、まあ予想通りといえば予想通りだ。

「数学の因数分解の出来が悪かったですね、強いていえば」

僕は素直に答える。

「そうなの?私、数学得意だから教えてあげようか?」

え、いいんですか!?なら是非!.....なんて、チキンな僕には言えるはずもなく、

「いえ、計算ミスがほとんどでしたので」

今度は嘘をまじえてそう答えた。

「というか、数学なんて言ってますけど、飯田先輩は基本、苦手教科ないじゃないですか」

彼女は特別成績がいいというわけではないが、毎回平均以上はコンスタントにとっているらしい。

「まあね!」

こういう時、「いやいや、そんなことないよ」という人は苦手だ。なんとなく。

時に明るく、遠慮なく冗談が言える飯田先輩は非常に好感が持てる。なんだか最近、頭の中で先輩のこと褒めすぎて、先輩補正でもかかっているのか?と思う。まあかかっているのだろう。疑問の余地なしだったな。

「西崎先輩はどうだったんですか?中間テスト」

西崎先輩に話を振ってみる。

「...平均くらいかな」

西崎先輩は答える。よくテストの点を聞いた時、「まあまあかな」と答える人がいる。西崎先輩の返答も、そんな当たり障りのない普通のものに聞こえるが違う。聞いたところによると西崎先輩は、毎回、全教科、1点の狂いもなく、ちょうど平均点をとっているらしい。これまたコンスタントに。信じられなかったので前に成績表を見せてもらった(他人に簡単に成績表を見せられるとは...)が、確かに全教科ちょうど平均点だった。本人曰く、どんなに勉強してもしなくてもそうなってしまうらしい。まるでフィクションの中の人のようだ。つまるところこの人のさっきの「平均くらいかな」とは、今回もちょうど平均点だったということだろう。

「ですよね」

僕は答える。


テスト談議は思いのほか早く終わった。皆は各々が持参していた本を再び読み始めた。


飯田先輩はミステリーを読んでいる。明るい彼女にはなんだかミスマッチである。

西崎先輩は詩集を読んでいる。心が落ち着くそうだ。

僕はラノベを読んでいる。二次元は尊い。うん。


三十分程たった頃だろうか、顧問の檍先生がやってきた。

「こんにちは」

僕達3人は挨拶した。


部室に入ってきた先生にはいつもとは違うある点があった。



――1人の女子生徒を連れていたのだ。

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