きみとわたしとえがおのまほう

@binzokomegane

きみとわたしとえがおのまほう

じゃんぐるちほーにある、大きな河。

そこを、木でできたいかだをひいて、フレンズの子たちを乗せて、泳いでわたるのが、ジャガーさんの日課です。

ジャガーさんは、大きいネコ科のけもので、見た目は、ちょっと怖いかもしれませんが、ほんとうはとっても、優しくて親切なフレンズです。

何を隠そう、この橋渡しをやってるのだって、河を渡れなくて、ここを通るフレンズたたちが困っているのを見て、泳げて、力も強い私なら、と、思ったからなのですから。


「……ふぅ」


お気に入りの岸辺まで来て、ひと休み。

今日は晴れで、水も暖かいですが、あんまり長い間泳いでいると、疲れるし、寒くて動けなくなってしまうので、こうしてたまにひなたぼっこして、身体を休めるのは、とても、大切なことです。


「今日も、働いたな……なんて。まだ、誰も運んでないけどね」


岸辺に停めた大切な仕事道具、昔、この川辺で見つけたいかだを見ながら、軽く、独り言を言ってみました。

ちょっと前までは、ジャガーさんの渡し船といったら、日に何度も河を行ったり来たり、何人ものフレンズを運んでいたものですが、今はさっぱりです。

というのも、ジャガーさんが出会った、とっても元気なサーバルキャットのサーバルと、その子が連れていた、とっても頭のいい、かばんちゃん。

そして、もう一人、いつでもにこにこと、楽しそうに、素敵な笑顔を浮かべている、とあるフレンズの子と、一緒に、力を合わせて、この大きな河に、大きな橋を作ったからなのでした。

この橋のおかげで、みんなは、昼でも、夜でも……フレンズによっては、雨の日だって、ジャガーさんのいかだに乗らなくても、好きなように、河を渡れるようになったのです。

ジャガーさんにとっても、それは、とっても嬉しいことでした。


「なぁ……それなら、私はなんで、まだこんな事、してるんだろうな」


「たーのしーからじゃなーいの?」


「うわぁっ!?」


ぼーっといかだを眺めて、誰にでもなく呟いていたところに、急にひょこっと横から顔を出して、話しかけてこられたものですから、大層びっくりして、ジャガーさんは慌ててその相手を見ました。

元気に満ちた笑顔がチャームポイントの、長いしっぽのフレンズ……そう、ジャガーさんと一緒に、かばんちゃんとサーバルちゃんの橋作りを手伝った、コツメカワウソちゃんです。


「お、驚かさないでよ……いつからいたの?」


「さっきからだよーっ。ジャガーちゃんったら、全然こっちに気付かないから、つい脅かしたくなっちゃった。あっははっ、だいせいこーう!」


「もー、いつもそんなんなんだから」


怒ったように口を尖らすジャガーさんですが、その目元は優しく笑っています。

コツメカワウソちゃんは、いっつもこんな風に楽しそうに笑っていて、今みたいにイタズラをされても、いつのまにかこっちまで楽しい気分になってきて、ついつい、許してしまうのです。


「それで? いかだに乗りに来たの?」


「そーそー! 早く乗せて乗せてー! あっ、そうそう、この子も連れて来たから!」


「……ど、どうも」


「おや、新しい子だね」


コツメカワウソに紹介されて、おずおずと、一人のフレンズの子が、茂みの奥から出てきました。

胴のあたりは黒く、手足や頭は白い毛皮に覆われた、やや小さなフレンズで、ジャガーさんのことを、ちょっとびくびくしながらうかがっています。

なので、怯えさせないように、ジャガーさんは柔らかに笑って、優しく話しかけることにしました。


「私はジャガー。大丈夫、取って食べたりしないよ」


「……わっ! わたしは、ミナミコアリクイっ、だぞぅ! ど、どうだ!?」


声をかけられたその子は、自分がなんのけものか名乗りながら、ばっ、と、両手を頭の上に高く掲げてみせました。

その顔はまだ固くて、緊張してしまっているみたいです。

どうしようか、と、ジャガーさんが少し困った所で、コツメカワウソちゃんがミナミコアリクイちゃんへ駆け寄ります。


「わーっ! 何そのポーズ、たっのしそーっ!わったしもやるやるーぅっ!」


「な、なんだよぅ! 遊びじゃないんだぞぅ、これは威嚇のポーズなんだぞぅっ!」


「威嚇ーっ? そうなんだ、すごいすごーいっ! がおーっ! あっははーっ!」


「ま、真似するなよぅ、あっち行ってよぅっ! 」


「……ぷっ、ふふっ」


ジャガーさんは、ついに耐えきれず噴き出してしまいました。

二人のやりとりが、あんまりにもあんまりに、面白かったからです。


「わ、笑うなよぅ! 真剣なんだぞぅ!」


「いやー、ごめん、ごめんって。私も仲間に入りたいくらい、楽しそうだったから」


「ならさならさ、ジャガーちゃんもっ、一緒にやろっ! うーっ、がおーっ!」


「あはは。私は、遠慮しとくよ。それで、いかだ、乗るかい? 向こう岸、行きたいんだろう?」


「あっ……うん、お願い、します」


「あっははっ、いかだだいかだだーっ!わーいっ!」


「危ないから、あんまり暴れないでね。特にコツメカワウソ」


「わーかってる、わかってるーっ! それじゃ、出発しんこーっ!」


「ぅわわっ、動いた……っ」


こうして、いつでも元気なコツメカワウソちゃんと、おっかなびっくりなミナミコアリクイちゃん、今日初めてのお客さんを二人乗せて、ジャガーさんのいかだは、ゆっくりと動き始めたのでした。


「いやぁ、それにしても、久しぶりだね。新しい子を乗せたのは。この河に橋があることは知ってる?」


「う、うん。わたし、一応、この辺りに住んでるから……そ、その、アルパカさんのカフェでっ、タイリクオオカミさんのお話を聞いてっ、その帰りで、行きは、橋だったし、せっかくだから、その、ちょっと、怖いけどぉ、乗っていこうかな、って……」


「へぇ、そうだったんだ。ありがとう、そう思ってくれて。私も久々のお客さんで嬉しいよ」


「ジャガーちゃん、私の事忘れてない?毎日乗ってるよんっ」


「うーん。毎日運んでるから、逆になぁ」


「えーっ、ひどーい!」


「ふっ、ふへへ……あっ、その、ごめなさ、笑うつもりじゃ……」


ジャガーさんと、コツメカワウソちゃんの、仲の良さが伝わってくるようなやりとりを見ているうちに、びくびくとしていたミナミコアリクイちゃんも、いつの間にか、笑みをこぼすのでした。

その様子に、二人は、上手くいった、と言わんばかりに、目配せをしあって、喜びます。


「おっ、やっと笑ってくれたね」


「わーい、やったーっ! だいせいこーだね、ジャガーちゃんっ」


「ぇ、えぇっ!?わざとだったの?」


「どうかなぁ? ほんとうの事だしなぁ」


「もーっ、ジャガーちゃんったらー」


「あははは、はははっ」


冗談を言い合ううちに、すっかり打ち解けて、三人は、とても楽しい気持ちになって、笑いあいます。

そんな、素敵なのどかさを乗せて、いかだはゆっくりと、大きな河の中を進んでゆくのでした。


「……さて、到着だよ。乗ってくれて、ありがとう」


「うん、こっちこそ、ありがとぅ。すっごく、楽しかったよぅ」


楽しい時間というのは、あっという間に過ぎ去ってしまうもので、気づけばもう、向こう岸に着いてしまいました。

すっかり打ち解けて、お礼を言って返すミナミコアリクイちゃんでしたが、そこで、ふと、気になったという様子で、一つ、ジャガーさんに問いかけてみます。


「ね、ねぇ。そういえば、ジャガーは、なんで橋渡し、今もやってるのぅ? 橋もあるのに」


「うーん。わからん」


「え、えぇ……?」


「ははっ、冗談冗談。私、こうやっていかだを牽いてる時に見える景色、結構好きでさ。それに、きみみたいに、今も、乗りたいって子が来てくれるから」


「そうなんだ、私もっ、好き! だよぅっ。また、乗りに来るからねっ!」


「ありがとう、そのときもよろしくね」


「バイバーイっ! また遊ぼーねーっ!」


ジャガーさんとコツメカワウソちゃんは、手を振って、ミナミコアリクイが茂みへ消えていくのを、見送りました。

すっかりその足音も聞こえなくなった所で、ジャガーさんは、いかだの上に乗っていたじゃぱりまんを二つ、取り出して、一つをコツメカワウソちゃんに差し出しました。


「さてと、そろそろ、ごはんにしようか。はい、これ」


「わーいっ! ありがとありがとーっ! 美味しそーうっ!」


「いつもと味は変わらないけどね」


大はしゃぎのコツメカワウソちゃんに、ジャガーさんはちょっとだけ苦笑い。

というのも、コツメカワウソちゃんは、こうして、毎日のように、ジャガーさんと一緒にお昼のごはんを食べているのですから、すっかり、慣れてしまっているに違いがないのです。

しかし、そんなジャガーさんの考えとは裏腹に、コツメカワウソちゃんは、笑顔を浮かべたまま、言ってのけるのです。


「いつもと同じだけど、違うんだよーっ。今日は、ミナミコアリクイちゃんと遊んだから、その分の味がするんだーっ。はむはむっ、んー、おーいしーっ!」


「その分の味、かぁ。はむっ……わからん。全然わからん」


コツメカワウソちゃんの言う事を確かめるために、ジャガーさんも一口、じゃぱりまんを齧ってみました。

やっぱり、いつもとおんなじ味です。


「もっとよく、味わってみてよーっ」


「うーん……確かに、ほんのちょっと、美味しいような」


「でしょでしょーっ! あっははーっ」


「あははっ」


しばらく味わっていると、不思議なことに、本当に、いつもよりちょっとだけ美味しいような、そんな気がしてきて、ジャガーさんも、思わず、と言った風に、コツメカワウソちゃんにつられて、笑っていました。


「本当に、まほうみたい」


「でしょでしょっ! すっごいよね、すっごいよね! 楽しいねーっ!」


「コツメカワウソのおかげだよ、きっと」


ジャガーさんは、なんとなく思うのでした。

きっと、自分がずっと、今も橋渡しを続けているのは、この、本当は自分で泳げるのに、毎日、楽しいから、と、いかだに乗りに来てくれる、コツメカワウソちゃんがいるからなんだ、と。

この、やけに賑やかで、ちょこっとイタズラ好きで、いつでも楽しそうで、気付いたら、周りのみんなまで笑顔になっているような、素敵なフレンズと、一緒に遊びたいからなんだろうな、と、そんな風に。


「えぇ? そーかなー、みんな一緒だから、楽しーんだよっ」


「あはは、そうだね」


「ねーねー、この後は何して遊ぶ? そーだっ、今度PPPが、あの山のてっぺんにある、アルパカちゃんのカフェで、ライブをやるんだって! 今から一緒に行こーよっ!」


「えぇ、今から? きっと早く着き過ぎちゃうって」


「いーのいーのっ! それなら待ってればいーんだよっ! 」


「流石にライブに合わせたほうがいいと思うなぁ」


「もー、仕方ないなぁ。じゃー何するっ!? お手玉?」


「うーん、そうだなぁ……」


‪ じゃんぐるちほーの昼下がりに、二人の楽しそうなかけあいが響いています。どこまでも、どこまでも。

それは、あんまりにも幸せに満ちていて、通りすがったフレンズの耳に入れば、思わずその子も笑顔になってしまう、不思議な魔法なのでした。

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