Re:Lif/ve

ミキ ハル

一章

Prologue

 眼下に広がるのはコンクリートとアスファルト。植込み。自転車置き場の屋根。よく行くコンビニ。母親のパート先であるスーパー。毎日の通学に使っている路線の駅。見慣れた街並み。

 オレの身体に吹き付ける風は夕方の気配を孕んで冷たく、夏が随分前に通り過ぎたことを感じさせた。

 ……オレにとっては夏も秋も冬も春も、何も変わらないのだが。


 この人生はいつか終わる。

 悪いことがあっても、明日には、そうでなくとも何年か経てば、ちゃんと過去のものになる。

 でも、過去のものになるってことは。もう二度と消えないってことだ。

 起こってしまったことは修正できない。タイムマシンでもなければどうにもできず、またタイムマシンを使っても、ほら、なんだっけ、タイムパラドックス? そういうものが起こるのでやめた方がいいと、色んなSF小説で言われている。そうだろ?

 過去は変えられない。

 アレを失くしたとか、怪我をしたとか、させたとか、誰かに酷いことを言って傷つけたとか、色々、取り返したりやり直したりすることはできるかもしれないが、それらをなかったことにはできない。


 オレは耐えられない。

 一生、ああいうことがあった、って背負って生きていくことができない。

 多分いろんな奴がオレのことを根性無しだとか弱い奴だとか、口々にけなすだろう。そんなことで、と言われる。目に見えてる。

 だから耐えられない。

 オレには、耐えられなかった。


「ごめんなさい」


 それが親に向けた言葉なのかオレ自身に向けた言葉なのかは、自分でも判断がつかない。

 でも、少し悔しくて、切なくて、申し訳がなかった。

 喉の奥がひりひりと痛くなって、胸の奥が熱くなって、涙腺が緩んできたから。

 オレはようやく、握り締めていた柵から両手を離して、足の下にあったコンクリートを蹴飛ばす。


 浮遊感に、ぞっ、と背筋の震えた気がした。

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