猫なら行ける異世界

安佐ゆう

第1話 にゃあ

「にゃあ」

ねえ、なんて言ったかわかる?も一回言うよ。

「にゃあ」

わかった?答えは、にゃあ。でした。一生懸命喋っても、うちの人には分からないからね。適当ににゃあって言っとけば、ほら、ドアを開けてくれるでしょう。

では、行ってきまーす。


僕の名前はハーちゃん。正式には、ハニーだけど、みんなハーさんとかハーにゃんとか、好きに呼んでる。茶トラ猫で、2歳の女の子だよ。

でも、この体に生まれる前は、人間だったんだ。覚えているのは子どもの頃までで、名前はハルオ。だからハーちゃんって呼ばれると、ちょっと懐かしい気持ちになる。


外で会う猫たちには、話が通じる奴と通じない奴がいるよ。通じる奴は

「にゃあ(こんにちは)」

って、鳴き声に気持ちを乗せると、

「にゃあ(なんだよお前、あっち行けよ)」

とか、はっきり返して来るけど、通じない奴だと、ぼんやりと好きーとか、いやーとかいう気持ちが伝わって来るだけで、喋ったりはできないんだ。


話が通じる奴はほとんど前世の記憶があって、散歩の途中で出会ったタマさんとかは、フワッとした真っ白い長毛種でほんと、由緒正しいお嬢様って感じの女の子なんだけど、前世は玉三郎っていうオカマさんだったんだって。

「あの頃は、オシゴトだったけど、今に活かされてるわあ」

って言ってた。

ちなみに、前世の名前と今の名前が近い子って、そのお家の人と相性がいいらしいよ。名付けの時、何かが繋がってるからなんだって。


さて、今日の予定だけど、なんかこう、ジューシーなものを食べたいな。カリカリもいいけどさ。あれって、おやつじゃん?

ってな訳で、今日は狩り!


うちの裏の公園の石垣の隅に、ギリギリ猫なら通れるって穴があるんだ。

そこが僕のテリトリー。

その穴をくぐると、ほら!澄み渡る空、小さい可愛い花が咲く草原、登りやすい木。そして……居た!今日の獲物は、トカゲだ。

僕より少し小さいトカゲは、素早く動いてなかなかに狩り甲斐のある獲物だ。息を殺し後ろから近付いて、素早く前足で引っ掛ける。そのまま押さえつけようとしたけど、トカゲは振り返って、僕の鼻先に火を吐いた。

あっちー。

鼻の上がちょっと焦げて、イラっとする。

バシっ

遠慮なくそばの岩に叩きつけて、動かなくなったトカゲをそのまま食べることにした。

本当は持って帰って、うちの人にも見せてあげようと思ってたんだけどね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る