ニートでもあり勇者でもある

たこ焼き

第1話 ニートは激怒した

ニートは激怒した


村の少年ニートは激怒した、村のやつらを必ず許さないと誓った。



「あいつら言いたい放題言いやがって!」



だが悪いのはニートの方だった。働きもせず平日の昼からゴロゴロして本を読む。食べたい時に食べ、寝たい時に寝る。



まるで褒めるところのないクズ野郎それがニートだったのだ。



「そこまで言わなくていいだろぉ!」



ん?



「ん?」



「幻聴かな?余りにも罵詈雑言を浴びせられたからな」



・・・・・・とにかく村の少年ニートは何年も自堕落な生活を送り、村の人々からはいらない子としてダメ人間代表のような扱いを受けていた。



「ったくみんなして勇者勇者言いやがって、勇者のなにがダメなんだよチョーカッケーじゃん勇者」



「いや、カッコよくないわよ勇者」



「おい!なに勝手に俺の家入ってんだ!」



「別にいいじゃない毎月本届けてやってるんだから」



「それはいいとして頼むから入るときはドア壊さないでいただけますか」



「だってあんた家から出ないんだから外に置いても意味ないじゃない。そうとなったらぶち壊して入るしかないでしょ!」



「いや、外ぐらい出るって!飯買いに行く時とか普通に出るわ!俺をなんだと思ってんだ」



「クズ?」



「うるせー」



彼女は村の娘チャオ、ニートとは同世代であり配達業を営んでいる。ニートが村の中で話すことができる数少ない村人である。



「それよりみた?この前の絶対に就きたくない職業ランキング、子供のなりたくない職業1位!?」



「そんなんどこでやってんだよ」



「雑誌でやってたの、結果は勇者の2冠でしたー」



このチャオという娘、その容姿とは似つかわしくない怪力と毒舌が有名だった。



「ちょっとーそんなにへこまなくてもいいじゃん」



「ウルセェ!勇者ってのはな!名誉な職業なんだぞ、誰がこの村を守ったと思ってるんだ!?」



「そんな涙目で言わなくても知ってるわよ、でもそれって何百年も前の話でしょ」



はるか昔、国が各地に名のある騎士を集め、 エリート集団を作り上げた。勇者と言われた彼らは国だけでなく民衆の希望でもあった。



「それはそうだけど・・・」



「それに村を救ったのはあんたじゃなくてあんたのご先祖様でしょ」



ニートの先祖も優秀な勇者であり、かつて崩壊の危機にあった村を救った。その時代の勇者の地位は絶大であり、民衆の意見で優秀な功績を納めた勇者は末裔全員の生活を保証されるという法律ができたほどである。



「あんたはご先祖様のおこぼれで生活できているだけ、その法律も、勇者の末裔の中から優れた人材が出るかもしれないという望みをかけて民衆が作った法律なんでしょ、その結果があんたみたいなクズを生んだんじゃご先祖様も浮かばれないわね」



「相変わらず毒舌だな、ぐうの音もでない」



「本当のことじゃない、それにその法律もいつまで続くかわからないし、あんたの今の立場じゃ村からいつか追い出されるかもしれないのよ」



「まぁそん時はそんときかな」



クズのクズな回答がチャオをイライラさせる。



「なんであんたはそうなの?なんで変わろうとしないのよ!?あんたが変わんない限り周りは絶対変わらないのよ!!」



「お、おい、いきなり大きい声だすなって」



「うるさいクズ!村から追い出されるかもしれないのよ!?そしたらあんた生きていけんの?お金があったって他の村じゃ受け入れてくれないかもしれないのよ!?」



「心配してくれてんの?」



「そんなわけないでしょ、金魚のふん以下のクズ!」



こんな言い方でも気にかけてくれるチャオにニートは感謝していた。だがあと一歩を踏み出す勇気がニートにはなかった。



怒りながらチャオがドアを壊し直して帰ったあと、ニートは呆然としながら外に出た。とても家で本など読む気分ではなかった。



普段人目を避けて道を歩くニートもこの時ばかりはそんなこと考えてもいなかった。



「お!?ニートがいるぞ!やっちまえー」



子供に石を投げられる。親が言ったことは子供にもすぐに伝染するようで、ニートが働かずに生活している理由さえ知らぬまま子供たちはニートを忌み嫌っていた。



「うるせーガキどもー!!」



「うわーニート怒ったー、勇者がうつるぞー」



「勇者はうつらねー!むしろうつってほしいだろうがぁ!」



子供でさえこの村ではニートを虐げる。最早ほとんど村でのニートの立場は無いに等しかった。



「まったくどうすればいいんだ・・・」



ネガティブな思考がニートの頭の中を支配する。



「あ、ニート君探しましたよ」



追い討ちをかけるようにさらなる不幸が降りかかってきた。



「そ、村長」



「はい村長です、まさか君が外にいるなんて、家にいないから死んだかと思いましたよ」



この村のトップであるこの村長は言うなればニートを虐げる人々のリーダー的な存在を担っていた。



「別に四六時中家にいるわけでは無いので」



「そうかそうか、すまんな、それで君に話したいことがあるのだが」



「はぁ」



「悪い話では無いよ、ちょっと国の方から君への召集がかかってね」



「え?」



「召集だよ召集、君には国の中心部へ向かってもらう」



「!?」



理解が全く追いつかなかった。



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