そう、あれは10年前・・・・!

ちびまるフォイ

これを書いたのは今から30分前・・!

ついに戦いは佳境へとさしかかった。


「ククク、ここまで楽しませてくれたのは

 貴様がはじめてだぞ」


「俺がはじめての相手ってわけか……」


「下ネタっぽく聞こえるように変換すんな!!」


お互いに傷つき傷つけられまさに満身創痍。


「いくぞぉぉぉ!!」


「さぁこい、勇者ああああよ!!!」



思えば10年前……。



「やーいやーい! バケモノ~!」


俺が16足歩行で顔が7つあるというだけでバケモノ扱い。


「コラー! いじめるなー!」


「わぁ! 男おんなだー! 逃げろー!」


蜘蛛の子を散らすようにいじめっこたちは逃げていった。


「愛奈ちゃん……」


「もう、男の子ならやられっぱなしじゃだめだよ」


「でもぼく……暴力嫌いだし……」


「しょうがないなぁ。それじゃ強くなるまで愛奈が守ってあげる!」


幼馴染の愛奈ちゃんは約束をうながすように小指をさしだす。

指きりしたのはこれがはじめてだった。


「愛奈ちゃん、ぼくきっと強くなるよ」


「うん、待ってる。それじゃ、このハンカチを持ってて」


「こ、これは……!!」


「ふふふ、そうだ。お前の生き別れの兄のハンカチさ……!」


「愛奈! 貴様、どうしてこれを!?」


「最後までお前の名を呼んでいたぞ? "あああああぁぁ!!"とな」


「それ単に叫んでるだけじゃ……」


兄のハンカチ。それは俺にとって特別な意味を持っていた。



あれはいつの頃だったろうか。


「ああああ、行くぞ。準備はいいか?」

「いいいい兄さん、待ってよ」


近所でも評判の仲良し兄弟と噂の俺たちはいつも一緒だった。

というより、兄の後ろをいつもくっついていた。


「ああああ。いつかオレはもっと大きな世界に行くよ」


「いいいい兄さん……」


「こんな狭い世界じゃなくて、もっと広くて驚きに満ちた世界に。

 そこで確かめたいんだ。自分がどこまでできるのか確かめたい」


「兄さん、まずは引きこもりから卒業しないと」


「ああああ。オレが戻ってくるまでこれを預かってくれないか?」


「これは……?」


「大事な人から託されたハンカチなんだ」


この世界では履きたてブリーフのことを「ハンカチ」という。

それは清潔な純白の色だった。


「大事な人……?」


「あれは2年前だったかな……」


兄は懐かしそうに上を見上げた。




「バカ野郎! きさまそれでもハンカチホルダーか!」


「師匠すみません!」


かつて兄は厳しい戦いに備えて訓練を受けていた。


「わしが若いころはもっと過酷で大変だったんだぞ!」


「そ、そうだったんですか……?」


「そう。今でこそ平和だが、わしらの時代はな――」


兄に戦いを教えた師匠は昔話をはじめた。



むかしむかしあるところに、おじいさんとおじいさんがおりました。


「じいさんや、わしは山で洗濯してくるぞ」

「それじゃわしゃ川で芝刈りにいってくるぞ」


ボケ防止にはじめた共同生活でしたが2人は共倒れになっていました。

ある日、川で将棋をさしていると上流から光る竹が流れてきました。

竹の中には金色に光るきれいな赤ちゃんが。


「なんだこれは。家に持って帰って食べよう」


おじいさんは完全なる末期老眼でした。

家につくと赤ちゃんは特撮ヒーローの敵さながらの急成長を見せました。


「おじいさん、おじいさん。私は月に帰らなければなりません。よよよ」


「もうちょっといることはできんのか?」

「もう少し日常パート挟んでもよかろう」


「ダメなのです。実はやんごとなき事情があって……」


元赤ちゃんは月での思い出を語り始めた。



その昔、月では異星獣との激しい攻防が繰り広げられていた。


「もうだめよ! この戦線は離脱するしかない!」


「敵さんはそれも許しちゃくれないみたいだぜ!!」


必死に応戦するも数に異星獣たちは月の戦闘員にスマホを与えて、

どんどんネットに依存させていく。怖い。


「このままじゃ私たちも時間を見つければネットする人に……」


「最後まであきらめるな! そのために、ユーキャンの俳句講座を受けたんだろう!」


「ふっ……そうだったわ。こんなところで諦めてられない!」


けれど、現実は無慈悲にじりじりと窮地へ追い詰めていく。

敗北の色がにじんだそのとき、相棒が竹の脱出ポッドに押し込んだ。


「ちょっ……、いったいなにを!?」


「地球にいけ。そして、必ず戻ってきて月を救ってくれ。

 お前が月最後の希望だ。……頼んだぞ!!」


竹の脱出ポッドは煙をふいて地球のガソジス河上流へと飛んでいった。


 ・

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 ・

 ・


「本当に長い戦いだったのぅ……」


老いた勇者ああああは、孫に話しつつも過去の思い出にひたっていた。


「おじいちゃん、いろんな人の思いをついで戦ったんだね」


「そうじゃよ。勇者とは多くの人の希望を背負って戦うんじゃ。

 わしもそうやって戦ったんじゃ」


「そうなんだ」


孫は最後に口を開いた。



「でも、戦闘中に回想なんてしなければ、

 魔王に負けてここまで落ちぶれることもなかったんじゃない?」

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