第六十話 おかしなパフェットと俺の使命感!

 パフェットが三ノ選を控えた翌朝のことだ。俺は、パフェットと一緒に食堂で朝食を摂っていた。スプーンを持った手が自然と止まる。どうも、パフェットの様子がおかしい。昨日、解散する前までは、パフェットは至って普通だった。一体パフェットに何が起きたというのか。


 パフェットは正面を向いたまま、ぼんやりしている。

 スープを掬うスプーンを持ったパフェットの手が、ロボットのようにぎこちなくパフェットの口に運ばれていく。パフェットのおかしな様子に、俺の食事も味気なくなる。


 あ、あれ? 俺はハタと勘付いた。


 もしかして、俺は何か仕出かしたのだろうか。いや、パフェットが気に病むようなことは何一つしてない自信がある。それに、俺の些細なことをこのパフェットが気にするだろうか。否、断言してしないはずだ。

 意を決して、俺は顔を上げた。


「あ、あのさ、パフェット?」

「……」


 パフェットは上の空だ。パフェットの目には何も映っていないようだ。本当に、どうしてしまったんだ? そういえば、パフェットの顔つきも変じゃないか? パフェットの目が虚ろで、腫れぼったい。何かあったのか? しかし、パフェットを観察する俺は、アッと声を上げた。


「そこは、口じゃなくて鼻なんだが!」

「ふがっ!?」


 パフェットは口ではなく鼻に食べさせて、むせ込んでいる。物凄く痛そうだ。泳いでいたときに、鼻に水が入ったことを思い出してしまった。


「い、いったい何をやっているんだ。ほら、これで拭けよ」


 俺は、傍にあったおしぼりをパフェットに手渡した。


「あ、ありがとですっ……」


 どうやら、パフェットは目を開けたまま夢を見ていたらしい。むせ込んで現実に帰って来たようだ。

 しかし、パフェットはなんでこんなに様子がおかしいんだ?

 俺は、パフェットの顔を見たまま考え込んだ。

 何故、パフェットはこんなに元気がないんだろう?

 もしかして、顔がむくんでいるせいだろうか? 

 はたまた、塩分の摂りすぎのせいか?

 俺は、ハッと合点した。そ、そうか。

 ここ数日、出店の屋台で食いすぎだ! これは、食いすぎた結果だ!

 そういえば、どことなく丸っこい! そうか! それで悩んでいるのか!

 しかし、女性にそのことを指摘するなど、フェミニストの俺ができるはずもない。


「ぱ……パフェット!」


 何か励まさなくては! 使命感にかられた俺は、何も考えずに口を開いた。

 パフェットはハッと我に返って、俺を恐る恐る見る。


「な、なんですかっ? ガーリックさんっ……」

「うん! パフェットはパフェットだからな!」

「な、何ですかっ?」


 パフェットは明らかに動揺している。

 どうやら、俺の推理は確信を突いているようだ。

 傷つけないように、励まさなくてはいけない。


「丸っこいほうがパフェットらしいじゃないか!」

「え゛っ? 丸っこいっ?」

「そうそう、でも気にするな! そもそも、パフェットはクリームの脂質が半端ない!」

「……!」


 パフェットの額に青筋が立った。

 テーブルを両手で叩いて、パフェットが立ち上がる。


「えっ? な、何かな? 何かな?」

「ですっ!」

「っあああああああああああ!?」


 食堂の中に、俺の絶叫が響き渡った。

 パフェットの体重のことは、禁句だと俺は肝に銘じた。

 口にすることは二度とないだろう。

 俺は、テーブルに突っ伏して、今後の俺に誓った。

 顔を上げると、パフェットがぷんすか怒っていた。


「もう、良いですっ! 私のせいだけかと思って嘆いていましたが、ガーリックさんに心底ムカついたからかもしれないですしっ! 分からないことは悩んでも無意味ですしっ!」

「はぁ? 何のことだ?」

「三ノ選っ! 頑張ってみますっ!」

「そ、そうだな!」


 どうやら、パフェットの線と線が繋がったらしい。

 いつも通りのパフェットに、俺は心底安堵した。

 俺は、まったりとジュースを飲む。


「ともかく、元気になって良かったな!」


 目をぱちくりさせていたパフェットだが、相好を崩した。


「そうですねっ! 元気が戻ったですっ!」


 勇気を振り絞って励まして良かったようだ。

 パフェットの元気が戻ったので、俺も釣られて笑顔になったのだった。

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